疾患解説
ベーチェット病(Behçet’s disease; BD)
1. 疾患概念と疫学
ベーチェット病(Behcet's disease, BD)は、再発性口腔内アフタ性潰瘍、皮膚症状、外陰部潰瘍、眼病変を4大主症状とする炎症性疾患である。特殊な場合を除き、一定の部位の炎症が慢性に持続するのではなく、急性の炎症が反復し、増悪と寛解を繰り返しつつ遷延した経過をとるのが特徴である。特殊病型として腸管ベーチェット病、血管ベーチェット病、神経ベーチェット病の3病型がある。
BDの病態の一つとして血管炎が想定されおり、Chapel Hill Consensus Conference 2012改訂でも多彩な血管に障害をきたす疾患として挙げられている。実際に、BD患者の口腔潰瘍、外陰部潰瘍、結節性紅斑、ぶどう膜炎、副睾丸炎、腸炎、中枢神経系の組織において、血管炎の存在が証明されている。また、BD患者においては好中球機能亢進がみられる。針反応による発赤を含む活動性病変部位には、感染が存在しないにもかかわらず好中球が浸潤している。前眼部型の前房蓄膿性虹彩炎も好中球機能亢進による。BD患者由来の好中球は、活性酸素産生・走化能・ライソゾーム酵素産生亢進を示し、組織破壊に寄与する。
BDは地中海沿岸東部諸国、中近東、中央アジア、東アジア、日本といった帯状のシルクロードに沿った地域に多く、欧米で少ない。有病率(人口10万人当たりの患者数)はトルコで80〜370人, 米国 0.12-0.33, イギリス 0.5である。日本の2014年度のBDの医療受給者証所持数は20,035件で, 10万人あたり12.4人程度と想定されている。性比は国別に異なり、トルコ・ギリシャは男性に多く、ドイツ・米国は女性が多い。日本では1972年の調査では男性がやや多かったが、1988〜2013年の受給者の割合では男女比0.72〜0.76とやや女性が多かった。
2. 病因
遺伝的要因としてHLA-B*51、特にHLA-B*5101、またHLA-A*26との相関が知られる。また、ゲノムワイド関連解析により、IL23R-IL12RB2、IL10が疾患感受性遺伝子であること、他にもERAP1、CCR1、STAT4、KLRC4、TLR4、NOD2、MEFVなどの免疫関連遺伝子が発症リスクとして同定されている(Kirino Y, et al. Nat Genet. 2013)。しかし、HLA-B*51はBDの好発するシルクロードエリア以外でも認められるが、BDの発生率に違いがあることから、地域特有な環境因子がBDに関与している可能性も示唆されている。
このため、遺伝子素因を背景に、環境要因が関与する多因子疾患としてBDの病態は想定されている。
3. 臨床症状
BDの症状は主症状と副症状に分けられる。主症状は診断上重要で高頻度で生じ、副症状は重篤な臓器症状に関与する。種々の症状が経時的に出現・消退することが多い。女性は粘膜皮膚症状、男性は眼・内臓病変が多い。以下の症状の横に発現頻度を示す。
1) 主症状
(1) 口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍 90%以上
ほぼ必発で、初発症状である場合が多い。口唇、歯肉、頬粘膜、舌、口蓋に好発し、有痛性で、初期には口腔内・口唇の浮腫性病変であるが、周囲に紅暈を伴い、中央に黄白色調の偽膜を生じて中心部に潰瘍を呈する。大きなアフタでなければ、数日から2週間ほどで瘢痕を残さず消失する。慢性的に再発を繰り返し、他の症状を伴わずに何年も経過することもある。口腔咽頭部、軟・硬口蓋のアフタ発現はBD以外では少ない。
年に3回以上の口腔内アフタ性潰瘍を生じることは国際診断基準の項目となっている。
(2) 皮膚症状 70-90%
- 結節性紅斑(erythema nodosum, EN):下腿伸側に好発する有痛性の浸潤や硬結である。皮膚症状では70.7%と最も出現頻度が高い。上肢、手指、足趾にも出現する。血管炎、Bazin硬結性紅斑、血栓性静脈炎、うっ滞性脂肪織炎などを鑑別として要し、皮膚生検で確定診断を行う。組織学的には隔壁性脂肪織炎であり、しばしば血管周囲の顆粒球・リンパ球の浸潤を認める。
- 皮下の血栓性静脈炎(superficial thrombophlebitis): 下肢に好発する潮紅、圧痛を伴う皮下硬結である。ある程度の長さの血管が侵されると索状に触れる。再燃性で遊走性血栓性静脈炎の形をとることが多い。組織学的には静脈内腔の狭窄や静脈周囲のリンパ球浸潤を認める。
- 毛嚢炎様皮疹(ざ瘡様皮疹):顔面、上肢、体幹、大腿に認められる小型の丘疹。大きさは均一で、毛包に一致するもの、一致しないものがある。
皮膚の被刺激性が亢進しており、虫刺され・外傷などにより容易に化膿する傾向があり、注射針の先端を前腕に刺した刺入部に紅斑や膿疱を形成する反応である針反応(pathergy)はBDで陽性となる。
(3) 眼症状 40-70%
通常BD発症後2-3年で眼病変を呈する。BDの眼炎症の特徴は、急性突発性に生じ比較的速やかに消退すること、ならびに反復することである。眼炎症の発作は多くは片眼性に生じるが、両眼同時に生じることもある。発現率は男性がより高率であり、視覚予後も女性より不良である。
- 虹彩毛様体炎型:前眼部のみの炎症で、視力低下・羞明感を自覚し、ときには前房蓄膿hypopyonを生じる。前眼部型単独であれば視力予後は悪くなく、治療も局所療法である。
- 網膜ぶどう膜炎型:眼底の病変を伴い、視力低下の程度が強く、視力予後が悪い。反復する網脈絡膜炎を主体とする場合、発作を繰り返すと視力は低下する。炎症の反復により、網膜萎縮、視神経萎縮、硝子体出血、血管新生性緑内障、網膜剥離も伴う。
- 上強膜炎、結膜炎
(4) 外陰部潰瘍 40-70%
男性では陰嚢に生じるが、陰茎や亀頭にも生じる。女性では、大小陰唇に好発する。
潰瘍は円形で、有痛性であり、しばしば多発する。小型の潰瘍は瘢痕を残さず治癒することは多い。鑑別としては、有痛性の水疱・潰瘍を生じる単純性ヘルペス感染症で、他には壊疽性膿皮症、梅毒、Lipschutz潰瘍などを鑑別とする。
2) 副症状
(1) 関節炎 50%
大小関節に非対称に出現し、約1-2週で消失する。罹患関節は膝、足、手関節に多く、脊椎、肩の病変は稀。関節の変形・強直や骨破壊は認められないことが多い。初発症状にもなりえる。
(2) 精巣上体炎、副睾丸炎 5%
男性BDの約5%に出現する。精巣の疼痛、陰嚢の発赤、腫大、腫脹を認め、症候は数日から2週間程度持続する。精巣上体炎合併例では、非合併例よりも、外陰部潰瘍、皮膚病変、関節炎、中枢神経病変の合併率が高く、比較的重症例に多い傾向であることが知られる。
(3) 消化器病変 15%
- 定型的な消化器病変が主な臨床症状であるBDを腸管BDとよぶ。類円形の下掘れ、あるいは瘻孔状の深い多発性の潰瘍が定型的で、強い細胞浸潤を伴う急性炎症の像を呈する。回盲部病変が最も高頻度に認められるが、食道から直腸までのすべての部位に病変を生じうる。腹痛、下痢、下血を伴い、時に穿孔を生じる。消化器病変の発症頻度は人種間で異なり、特に日本人に高い。炎症性腸疾患との鑑別が問題となることがある。
- 骨髄異形成症候群(MDS)、特にトリソミー8を有する場合に、腸管BD様の病変を生じることがある(Clin Exp Rheumatol. 2015;33(6 Suppl 94):S145-51.)。治療抵抗性の経過となることが多く、MDSの治療薬を用いることもあり、鑑別が重要である。
(4) 血管病変 6.3〜15.3%
血管病変が主な臨床症状であるBDを血管BDと呼ぶ。動静脈のさまざまな径の血管に炎症をきたしうることから、variable vessel vasculitisに分類され、本邦の研究班の検討では、静脈病変71.4%(血栓68.6%)、動脈病変29.5%(動脈瘤19.0%、閉塞12.4%)、肺病変24.8%(肺塞栓19.0%、動脈瘤7.6%)、心病変6.7%の頻度(ベーチェット病診療ガイドライン2020)。
- 静脈病変:大静脈や主幹分枝の血栓性閉塞が典型的で、特に下肢深部静脈に好発する。表在静脈の血栓性静脈炎(superficial vein thrombophlebitis; SVT)あるいは深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)がみられる。SVTは下肢に好発し、DVTは大腿静脈、上下大静脈に好発する。基本的には血管壁の炎症であると考えられ、肺塞栓の合併はまれである。
- 動脈病変:大動脈およびその分枝での動脈瘤形成や狭窄・閉塞が認められる。肺動脈瘤はほとんどが男性に発症し、下肢の血栓性静脈炎を合併することが多い。BDの動脈瘤は急速に増大しやすく、小さくても破裂しやすい。
- 心病変:急性心筋梗塞、無症候性心筋虚血に注意が必要である。
(5) 中枢神経病変 10%
中枢神経病変が主な臨床症状であるBDを神経BDと呼ぶ。BDの発病後、数年以上を経た時期に出現することが多く、男性に多い。ただしBDの発症と同時に髄膜脳炎を呈する症例もある。脳実質の炎症性病変に起因する神経BDの精神神経症状は、その主要な症候が小脳・脳幹部および大脳基底核の障害に基づく点に大きな特徴があり、神経病変の分布、寛解と増悪を繰り返す臨床経過は多発性硬化症と類似し、鑑別が困難な場合もある。神経BDは臨床的に急性型( ≈ attacks and remissions),慢性進行型( ≈ primary progression : 発現時にattackがなく徐々に進行, secondary progression : attackを繰り返し階段状に進行、attackがない時も進行)に分けられる。いくつかの研究において、シクロスポリン服用が神経症状発現の一つの危険因子であることが明らかにされている。
① 急性型神経BD
発熱・頭痛を伴った髄膜炎や脳炎様の症状を伴うことが多い。これに片麻痺や脳神経麻痺などのさまざまな脳局所徴候を伴うこともある。頭部MRIが有用で、一般に障害部位ではT2協調画像、FLAIR画像において高信号域として描出される。髄液検査では細胞数の増加および蛋白濃度の中等度以上の上昇を示す。細胞分画では好中球の割合が増加する。髄液interleukin(IL)-6が著明に上昇することが多く、この点で多発性硬化症と大きく異なる。急性型では、症状の軽快と一致して髄液の細胞数・蛋白濃度は改善し、これと並行して髄液IL-6も低下する。厚生労働省班会議による1988年から2008年までに神経症状を示したBD 142例のコホート研究では急性型と非神経BDの比較において、髄液細胞数18.5/μlをカットオフとした場合、感度96.5%、特異度96.7%で急性型を診断できたとされる。
② 慢性型神経BD
慢性型の神経BDの中には、副腎皮質ステロイドを含む種々の治療にも抵抗性を示し、認知障害や精神症状が進行し、ついには人格の荒廃をきたす予後不良な一群がある。慢性進行型の臨床症状の特徴は、急性型と類似した脳の局所徴候や髄膜炎、脳炎症状が先行症状として一過性に出現したのちに、徐々に認知力低下、精神症状、人格変化が進行する。脳神経系症状としては、小脳失調による歩行障害、構音障害、排尿障害が出現し、これらも徐々に進行する。患者背景として、慢性型神経BDは男性に圧倒的に多く(90%以上)、HLA-B51は90%強が陽性である。画像検査では急性型神経BDと同様の所見のほか、脳幹部・大脳・小脳の萎縮を伴うことがある。髄液中の細胞数増加や蛋白濃度はごく軽度上昇か正常であるにもかかわらず、持続的に髄液中のIL-6が異常高値(20pg/ml以上)を示すことが特徴である(Hirohata S, et al. Clin Immunol Immunopathol. 1997.82:12-17)。
4.検査
- 採血検査:BDの活動期には末梢血白血球数の増多・血沈の促進・血清CRP陽性・血清補体価の上昇などが見られる。抗核抗体などの自己抗体は通常陰性である。
- HLA-B51
- 針反応:20-22Gの比較的太い注射針を用いること。
- 病理学的検査:皮膚生検。好中球性の炎症、隔壁性脂肪織炎、血管炎
- 眼科診察:虹彩毛様体炎、網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)、続発性眼病変(白内障・緑内障など)
- 特殊病型の検査
- 腸管:便潜血、消化管内視鏡
- 血管:造影CT, MRI, FDG-PET, 静脈エコー, 血管造影
- 神経:頭部MRI, 髄液検査(IL-6)
5.診断
2003年に厚生労働省研究班により診断基準、2016年に小改訂版が作成された(表1)。参考となる検査にprick test for dead Streptococciが追加となった。活動性を評価する活動期分類(表2)および重症度を評価する重症度基準(表3)も作成された。4主症状を示す「完全型」とそうではない「不全型」、主症状の一部が出現する「疑い」、「特殊病型」として、腸管の潰瘍性病変を示す腸管ベーチェット、大小の動静脈の病変をきたす血管ベーチェット、脳幹・小脳・大脳白質の病変を主体とする神経ベーチェットが定義されている。一方、BDの国際診断基準では、皮膚の針反応pathergy testの陽性所見が診断上重要とされている(表4)[5]。針反応はBDに最も特異性の高い検査であり、皮膚の被刺激性の亢進を反映する。無菌の注射針を前腕部の皮膚に刺入し、24-48時間後に同部の発赤・膿胞の形成を認めれば陽性である。出現頻度は40%程度。HLA-B51の陽性は参考所見である。ただし、この国際診断基準には特殊病型の記載がない。
(表1)厚生労働省ベーチェット病 診断基準(2016年小改訂)
1.主要項目
(1)主症状
- 口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍
- 皮膚症状
- 結節性紅斑様皮疹
- 皮下の血栓性静脈炎
- 毛嚢炎様皮疹、痤瘡様皮疹
参考所見:皮膚の被刺激性亢進
- 眼症状
- 虹彩毛様体炎
- 網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)
- 以下の所見があれば(a)(b)に準じる
(a)(b)を経過したと思われる虹彩後癒着、水晶体上色素沈着、網脈絡膜萎縮、視神経萎縮、併発白内障、続発緑内障、眼球癆
- 外陰部潰瘍
(2)副症状
- 変形や硬直を伴わない関節炎
- 精巣上体炎(副睾丸炎)
- 回盲部潰瘍で代表される消化器病変
- 血管病変
- 中等度以上の中枢神経病変
(3)病型診断の基準
- 完全型:経過中に4主症状が出現したもの
- 不全型:
- 経過中に3主症状、あるいは2主症状と2副症状が出現したもの
- 経過中に定型的眼症状とその他の1主症状、あるいは2副症状が出現したもの
- 疑い:主症状の一部が出現するが、不全型の条件を満たさないもの、及び定型的な副症状が反復あるいは増悪するもの
- 特殊病変:完全型または不全型の基準を満たし、下のいずれかの病変を伴う場合を特殊型と定義し、以下のように分類する。
- 腸管(型)ベーチェット病―内視鏡で病変(部位を含む)を確認する。
- 血管(型)ベーチェット病―動脈瘤、動脈閉塞、深部静脈血栓症、肺塞栓のいずれかを確認する。
- 神経(型)ベーチェット病―髄膜炎、脳幹脳炎など急激な炎症性病態を呈する急性型と体幹失調、精神症状が緩徐に進行する慢性進行型のいずれかを確認する。
2.検査所見
参考となる検査所見(必須ではない)
- 皮膚の針反応の陰・陽性
20〜22Gの比較的太い注射針を用いること - 炎症反応
赤沈値の亢進、血清CRPの陽性化、末梢血白血球数の増加、補体価の上昇 - HLA-B51の陽性(約60%)、A26(約30%)。
- 病理所見
急性期の結節性紅斑様皮疹では中隔性脂肪組織炎で浸潤細胞は多核白血球と単核球の浸潤による。初期に多核球が多いが、単核球の浸潤が中心で、いわゆるリンパ球性血管炎の像をとる。全身的血管炎の可能性を示唆する壊死性血管炎を伴うこともあるので、その有無をみる。 - 神経型の診断においては髄液検査における細胞増多、IL-6増加、MRIの画像所見(フレア画像での高信号域や脳幹の萎縮像)を参考とする。
3.参考事項
- 主症状、副症状とも、非典型例は取り上げない。
- 皮膚症状の(a)(b)(c)はいずれでも多発すれば1項目でもよく、眼症状も(a)(b)どちらでもよい。
- 眼症状について
虹彩毛様体炎、網膜ぶどう膜炎を経過したことが確実である虹彩後癒着、水晶体上色素沈着、網脈絡膜萎縮、視神経萎縮、併発白内障、続発緑内障、眼球癆は主症状として取り上げてよいが、病変の由来が不確実であれば参考所見とする。 - 副症状について
副症状には鑑別すべき対象疾患が非常に多いことに留意せねばならない(鑑別診断の項参照)。鑑別診断が不十分な場合は参考所見とする。 - 炎症反応の全くないものは、ベーチェット病として疑わしい。また、ベーチェット病では補体価の高値を伴うことが多いが、γグロブリンの著しい増量や、自己抗体陽性は、むしろ膠原病などを疑う。
- 主要鑑別対象疾患
- 粘膜、皮膚、眼を侵す疾患
多型滲出性紅斑、急性薬物中毒、Reiter病 - ベーチェット病の主症状の1つをもつ疾患
- ベーチェット病の主症状および副症状とまぎらわしい疾患
口腔粘膜症状 ヘルペス口唇・口内炎(単純ヘルペスウイルス1型感染症) 外陰部潰瘍 単純ヘルペスウイルス2型感染症 結節性紅斑様皮疹 結節性紅斑、バザン硬結性紅斑、サルコイドーシス、Sweet病 関節炎症状 関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、
強皮症などの膠原病、痛風、乾癬性関節症消化器症状 急性虫垂炎、感染性腸炎、クローン病、薬剤性腸炎、腸結核 精巣上体炎(副睾丸炎) 結核 血管系症状 高安動脈炎、Buerger病、動脈硬化性動脈瘤 中枢神経症状 感染症・アレルギー性の髄膜・脳・脊髄炎、
全身性エリテマトーデス、脳・脊髄の腫瘍、
血管障害、梅毒、多発性硬化症、精神疾患、
サルコイドーシス
口腔粘膜症状 慢性再発性アフタ症、Lipschutz陰部潰瘍 皮膚症状 化膿性毛嚢炎、尋常性痤瘡、結節性紅斑、遊走性血栓性静脈炎、単発性血栓性静脈炎、Sweet病 眼症状 サルコイドーシス、細菌性および真菌性眼内炎、急性網膜壊死、サイトメガロウイルス網膜炎、HTLV-1関連ぶどう膜炎、トキソプラズマ網膜炎、結核性ぶどう膜炎、梅毒性ぶどう膜炎、ヘルペス性虹彩炎、糖尿病虹彩炎、HLA-B27関連ぶどう膜炎、仮面症候群 - 粘膜、皮膚、眼を侵す疾患
(表2)ベーチェット病の活動期分類
1. 活動期
ぶどう膜炎、皮下血栓性静脈炎、結節性紅斑様皮疹・外陰部潰瘍(女性の性周期に連動したものは除く)、関節炎症状、腸管潰瘍、進行性の中枢神経病変、進行性の血管病変、副睾丸炎のいずれかが認められ、理学所見(眼科的診察所見を含む)あるいは検査所見(血清CRP、髄液所見、腸管内視鏡所見など)から炎症徴候が明らかなもの。口腔内アフタ性潰瘍、皮膚・外陰部潰瘍および眼症状については、それぞれ下記のscore 2以上を示す場合を活動期BDとする。
2. 非活動期
活動期の定義に当てはまらないもの。
(注1) 活動期には一般に治療薬剤の増量、変更、追加が必要となる。
(注2) 口腔粘膜のアフタ性潰瘍、毛嚢炎様皮疹のみの症状の場合は活動性判定のよりどころになりにくいので、その他の症状あるいは既往症状を考慮して慎重に判定することが望ましい。
3. 活動指数
(1) 口腔内アフタ性潰瘍
score 0 : なし
score 1 : 最近の4週のうち症状が存在したのは2週未満である
score 2 : 最近の4週のうち症状が存在したのは2週以上である
score 3 : 最近の4週のうちほとんどに症状が存在した
(2)皮膚(結節性紅斑様皮疹)・外陰部潰瘍
score 0 : なし
score 1 : 最近の4週のうち症状が存在したのは2週未満である
score 2 : 最近の4週のうち症状が存在したのは2週以上である
score 3 : 最近の4週のうちほとんどに症状が存在した
(3) 眼症状(ぶどう膜炎)
score 0 : なし
score 1 : 最近の4週のうち症状が存在したのは2週未満である
score 2 : 最近の4週のうち症状が存在したのは2週以上である
score 3 : 最近の4週のうちほとんどに症状が存在した
(4) その他の症状
① 関節炎症状:関節炎、腫脹の有無、歩行困難、変形の出現など
② 消化器病変:急性・慢性腹痛、下血または潜血反応
③ 副睾丸炎:疼痛、腫脹の有無
④ 血管系病変:心大動脈障害、中血管閉塞、小血管閉塞、血栓性静脈炎など
④ 中枢神経病変:頭痛、めまい、四肢麻痺、精神症状など
(表3)ベーチェット病の重症度分類
Stage | 内容 |
---|---|
I | 眼症状以外の主症状(口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚潰瘍、外陰部潰瘍)のみられるもの。 |
Ⅱ | Stage Iの症状に眼症状として虹彩毛様体炎が加わったもの。 Stage Iの症状に関節炎や副睾丸炎が加わったもの。 |
Ⅲ | 網脈絡膜炎がみられるもの。 |
Ⅳ | 失明の可能性があるか、失明に至った網脈絡膜炎およびその他の眼合併症を有するもの。活動性、ないし重度の後遺症を残す特殊病型(腸管BD、血管BD, 神経BD)である。 |
Ⅴ | 生命予後に危険のある特殊病型BDである。慢性進行型神経BDである。 |
注
- StageI, Ⅱについては活動期(下記参照病変が1年間以上見られなければ、固定期(寛解)と判定 するが、判定基準に合わなくなった場合には固定期から外す。
- 失明とは、両目の視力の和が0.12以下もしくは両眼の視野がそれぞれ10°以内のものをいう。
- ぶどう膜炎、皮下血栓性静脈炎、結節性紅斑様皮疹、外陰部潰瘍(女性の性周期に連動したものは除 く)、関節線症状、血管潰瘍、進行性の中枢神経病変、進行性の血管病変、副睾丸炎のいずれかがみられ、 理学所見(眼科的診察所見を含む)あるいは検査所見(血清CRP, 血清補体価、髄液所見、腸管内視鏡 所見)から炎症徴候が明らかなもの。
(表4)ベーチェット病の国際診断基準(1990年) (Lancet. 1990. 335:1078-1080.)
再発性口腔内潰瘍形成 | 医師または患者の観察による小アフタ性、大アフタ性、またはヘルペス状の潰瘍形成が12ヶ月間に少なくとも3度出没すること |
---|---|
再発性口腔内潰瘍形成があり、さらに次の4項目ののち2項目存在するときに、その患者はBDであるといえる。 | |
再発性外陰部潰瘍形成 | 医師または患者の観察によるアフタ性潰瘍形成、または瘢痕形成 |
眼病変 | 前部ぶどう膜炎、後部ぶどう膜炎、またはスリットガラス検査で硝子体内に細胞の証明、あるいは眼科医の診察による網脈絡膜炎 |
皮膚病変 | 医師または患者の観察による結節性紅斑、毛嚢炎様皮疹または丘膿疹病変あるいは、コルチコステロイド治療を行っていない思春期以後の患者で医師により観察されるざ瘡様結節 |
Pathergy test(針反応)陽性 | 24-48時間後に医師により観察されたもの |
注)これらの項目は他疾患を除外できたときにのみ適用する
6.治療
2008年、トルコのリウマチ専門医が中心となりヨーロッパリウマチ学会(EULAR)から、ベーチェット病治療の推奨が報告され(Hatemi G, et al. Ann Rheum Dis. 2008.67:1656-1662.)、さらに2018年にupdateされ、TNF阻害薬の適応についての記載が増えた(Hatami G, et al. Ann Rheum Dis. Epub ahead)(図5)。ランダム化コントロール試験で有効性が証明されたものは少なく、特に血管型、腸管型、神経型に関する推奨のエビデンスレベルは必ずしも高くない。日本の現状との相違についても理解しておく必要がある。特に眼病変に対する治療は大きく異なり、抗TNFα抗体が非常に効果的である。BDは通常、寛解と増悪を繰り返すが、眼症状と重篤な臓器病変がなければ予後はよいといえる。一般的に発病後3-7年で病勢は極期に達し、10年以上経過すると寛解傾向となる。また、本法においてはベーチェット病診療ガイドライン2020が発刊となり、これらのガイドラインを参考に臓器障害や重症度に応じて治療を決定とする。
1) 治療の基本方針
薬物療法にはコルヒチン、アプレミラスト、ステロイド、免疫抑制薬、抗TNFα抗体などが用いられている。重篤な視力障害を残しうる眼病変、生命予後に影響を及ぼす特殊病型(神経・血管・腸管ベーチェット)に対して積極的な免疫抑制療法を行うが、口腔内潰瘍、陰部潰瘍、皮膚病変に対しては原則としてステロイドの外用を中心とした局所療法またはコルヒチンの内服で対処する。
- コルヒチン:細胞の微小管の機能を抑制することにより、好中球の化学走化性を阻害する。眼・皮膚・外陰部潰瘍・口腔内アフタに有効である。急性増悪症状を繰り返す場合、局所療法に加え、コルヒチンが約60%に有効である。2001年に二重盲検により、1-2mgのコルヒチンは男性では関節炎に、女性では外陰部潰瘍、結節性紅斑、関節炎に有効であることが示された。副作用に下痢がある。妊娠時にも、コルヒチンの継続が、妊娠の転帰に影響しないとの報告も散見され、必要に応じて継続できる可能性がある。男性については、無精子症が報告されているため、挙児を希望する男性への使用は可能な限り避けたほうが良いと思われる。
- NSAID: 関節痛・副睾丸炎・結節性紅斑に対してNSAIDsを用いることがあるが、ガイドライン上の記載からは外れている。
- ステロイドを含む外用薬:口内炎にケナログ軟膏等、陰部潰瘍や結節性紅斑・毛嚢炎に対してはリンデロン-VG軟膏などを用いる。
- ステロイド:発熱・強い疼痛を伴う皮疹、粘膜障害を認める場合、短期のプレドニン15〜30mg/日程度を使用することがある。また、神経・血管・腸管病変など重要臓器障害を伴う場合には、中等量から大量の投与が行われる(30-60mg/日)。なお急速減量により眼発作が誘発されているといわれており注意が必要である。
- アプレミラスト:経口PDE4阻害薬であり、細胞内のcAMP濃度を上昇させ、炎症性サイトカインを抑制する。口腔潰瘍の個数を減らす有効性が証明されている(Hatemi G, et al. N Engl J Med. 2019;381:1918-1928.)。
2) 病態に応じた治療
- 皮膚粘膜症状
口腔内潰瘍や陰部潰瘍では、清潔・口腔内洗浄指導と共に、ステロイド外用薬や粘膜保護薬による局所治療を行う。コルヒチンは皮膚粘膜病変全般での治療選択肢となり、口腔内潰瘍に対してはアプレラミストが選択肢となる。難治性病変では抗TNF抗体は選択肢となるが、保険適応上の注意はある。 - 眼病変
日本では非発作期の選択肢にコルヒチンが含まれるが、他の国では免疫抑制剤、抗TNF抗体が選択肢となり、国により治療選択が異なることに注意。虹彩毛様体炎型に対しては、散瞳薬点眼、ステロイドの点眼や結膜下注射などの局所治療がまず行われる。アザチオプリンはEULAR recommendationsでRCTもあり推奨されているが、実地臨床では効果が薄いとのことで本邦ではあまり用いられない。特に発作時、局所・内服ステロイドが用いられるがRCTはない。炎症を早期に抑制するが、白内障・緑内障などの合併症に注意。
網膜ぶどう膜炎型では、ステロイド局所治療でコントロール不十分であれば、シクロスポリンか抗TNFα抗体が使用される。シクロスポリンは2-5mg/kg/dayで使用、トラフ150ng/ml程度を目標。視力を改善し、眼発作の頻度・重症度を低減する。腎障害、高血圧誘発、神経症状の発現に注意(神経病変の項を参照)。抗TNFα抗体(インフリキシマブ,アダリムマブ)は多剤抵抗性、再発性の炎症性眼病変で用いられ高い有効性がみられている。投与時には潜在性結核などのスクリーニングが必要である。 - 神経病変症例
急性型に対しては、発作に対してはステロイドパルス後、高容量ステロイドを用いる。免疫抑制剤の併用も考慮されるが、重症例では抗TNFα阻害薬の併用が考慮される、慢性型については、髄液中のIL-6 17pg/ml以下であるかを指標に、MTX、抗TNFα阻害薬の使用が考慮される。 - 腸管病変
潰瘍性病変に対して、急性期は高容量ステロイドを用いる。状態に応じ絶食、輸液、低残さ食など。穿孔、大出血、腸管閉塞の場合は外科適応を考慮する。慢性期はAZPや炎症性腸疾患に準じて5-ASA製剤を用いることがある。治療抵抗性の病態に抗TNF 抗体が奏効した報告がみられ、IFXについては30週後の奏効率50%と報告されている(Lee JH, et al. Inflamm Bowel Dis. 2013. 19:1833)。 - 本邦では2020年にエキスパートコンセンサスとしての診療ガイドラインがあり(ベーチェット病診療ガイドライン2020、J Gastroenterol. 2020;55(7):679-700.)、寛解導入療法として軽症〜中等症で5-ASA製剤、SASP、これらが無効な場合や中等〜重症例ではステロイドあるいは抗TNFα抗体(インフリキシマブ, アダリムマブ)を使用となる。腸管病変に対するコルヒチンの有効性は明確なエビデンスに裏打ちされてはいない。
- 血管病変
BDの静脈血栓の病理は血管壁の炎症である。急性血栓性静脈炎・深部静脈血栓症に対してはステロイド、免疫抑制剤、抗TNF抗体などを使用することがある。抗凝固薬についてコンセンサスはないが、血栓の状況を見て使用されることがある。
大血管炎、動脈瘤、肺動脈瘤に対しては、高容量ステロイドが用いられる。併用薬として、従来はシクロフォスファミドが用いられることがあったが、近年では抗TNF 抗体が用いられている。手術前に内科的治療により十分に血管壁の炎症を抑制したうえでないと、術後の血管瘤発生の頻度が高くなるとされている。
(表5)EULAR推奨(Hatemi G, et al. Ann Rheum Dis. 2018.)
オーバービュー
- Behcet's syndrome(BS)は、典型的には再燃と寛解を反復する臨床経過をとり、治療の目標は炎症の悪化と再燃をすみやかに消退させることと、不可逆的な臓器障害を防ぐことにある
- 眼病変に対しては専門家による共同のアプローチが求められる
- 治療は、年齢、性別、臓器障害の型・重症度、患者の希望により個別化されるべきである
- 眼病変、血管病変、神経病変、腸管病変は予後不良と関連する
- 病勢は時間の経過とともに落ち着くことが多くの患者でみられる
1.皮膚・粘膜病変
- 口腔潰瘍、陰部潰瘍については局所ステロイド等の塗布を用いるべきである。
- コルヒチンは皮膚粘膜病変の再燃予防、特に結節性紅斑や陰部潰瘍の場合には第一に試すべきである(IB)(A)。
- 膿疱性丘疹、ざ瘡様病変には、尋常性ざ瘡と同様の局所・全身治療を用いるべきである(IV)(D)。
- BSにおける下肢潰瘍は静脈うっ滞または血栓性静脈炎によるかもしれない。皮膚科、血管外科医と協力して治療計画を立てるべきである(D)。
- アザチオプリン、サリドマイド、IFN-α、TNF-α阻害薬、アプレミラストは、限られた症例で考慮される(IIA)(B)
2.眼病変
- BSによるぶどう膜炎のマネジメントは眼科医と密に協力し、持続的な寛解を目標とする。
- 前部ぶどう膜炎に対しては、アザチオプリン(IB)、シクロスポリン(IB)、IFN-α(IIA)、抗TNFα抗体(IIA)によるレジメンにより治療すべきである。全身的なステロイド投与はアザチオプリンかほかの免疫抑制剤との併用下で行うべきである(A/B)。
- 初発または再燃の急性に視力障害をきたすぶどう膜炎に対しては、高容量ステロイド、インフリキシマブ、またはIFN-αによる治療を行うべきである(IIA)(B)。
- ステロイドの硝子体内注射は、片側性の増悪に対して、全身性の治療に追加して行いうる
3.孤発性前部ぶどう膜炎
- 若年、男性、発症早期などの予後不良因子がある場合、全身性の免疫抑制療法が考慮される(IV)(D)。
4.急性深部静脈血栓症
- BSにおける急性深部静脈血栓症には副腎皮質ステロイドとアザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリンなどの免疫抑制薬が推奨される((III)(C)。
5.治療抵抗性の静脈血栓
- 治療抵抗性の静脈血栓症に対しては、抗TNFα抗体の使用が考慮される(III)(C)。
- 抗凝固薬は追加してもよいが、出血リスクが低く、かつ肺動脈瘤が除外されている場合に限る。
6.動脈病変
- 肺動脈瘤に対しては、高容量の副腎皮質ステロイドとシクロホスファミドが推奨される。難治例では抗TNFα抗体の使用も考慮すべきである(III)(C)。
- 出血リスクの高い症例では開胸手術より塞栓術を優先すべきである
- 大動脈瘤、末梢動脈瘤に対しては、シクロホスファミドおよび副腎皮質ステロイドによる治療を先行させることが必要である。症候性の場合には、手術、ステント術を遅らせるべきではない(III)(C)。
7.腸管病変
- BSによる腸管病変は内視鏡および画像診断で確定するべきである。NSAID潰瘍、炎症性腸疾患、結核などの感染症を除外すべきである。
8.治療抵抗性/重症の腸管病変
- 穿孔、大出血、閉塞の場合には、緊急で外科に相談すべきである。
- 急性増悪時には、副腎皮質ステロイドを5-ASA, アザチオプリンなどの薬剤と併用して用いるべきである。
- 重症/治療抵抗性の場合には、抗TNFα阻害薬、サリドマイドを考慮すべきである(III)(C)。
9.神経病変
- 実質病変の急性発作に対しては、高容量副腎皮質ステロイドとアザチオプリンなどの免疫抑制薬を開始し、ステロイドはゆるやかに減量すべきである。シクロスポリンは避けるべきである。抗TNFα阻害薬は重症例の第一選択または治療抵抗例で考慮すべきである(III)(C)。
- 脳静脈血栓症の初回発作時は、高容量副腎皮質ステロイドを開始し、ステロイドはゆるやかに減量すべきである。抗凝固薬は短期であれば追加してもよい。頭蓋内の血管病変についての検索が必要である(III)(C)。
10.関節病変
- BSによる急性関節炎に対してはコルヒチンを初期治療として投与すべきである(IB)(A)。急性の単関節炎に対してはステロイドの関節注射も可能である。反復例、慢性例ではアザチオプリン、IFN-α、抗TNFα抗体も考慮すべきである