当科大学院生の感想文
後藤愛佳先生(平成29年 東京大学卒、令和2年度 大学院進学)
学生時代、臨床と基礎研究を繋ぐようなtranslational researchにぼんやりと憧れていた頃、現教授の藤尾先生が「マウス免疫とヒト免疫の違いが明らかになってきており、これからはヒトにおける免疫系の解明が重要となる!」と熱心にレクチャーしてくださったのを契機に、リウマチ膠原病科や免疫学に興味を持ちました。そして、臨床研修で様々なアンメットニーズが存在することを実感し、physician scientistとして医療の発展に貢献したいという気持ちを胸に、大学院進学を決めました。
大学院1年目は主に臨床業務や臨床研究が主体で、藤尾教授に加え、当科の大学院でトレーニングなさったポスドク・助教の先生方より、臨床免疫学をベースとした様々な視点でのアセスメントを教わることができました。臨床面での成長を感じるとともに、2年目以降の基礎研究がますます楽しみになったのを覚えています。
大学院2年目からは、加齢や自己免疫疾患で増加する新規のT細胞サブセットの同定と機能解析に関するプロジェクトに参加し、特にサブグループの先生方には、基礎免疫学、研究に対する姿勢や考え方、実験手技と、幅広く手取り足取りご指導いただきました。何より、小さなトラブルシューティングから研究の大きな方向性まで、皆でディスカッションし研究を進められたことが非常に楽しかったですし、その成果を一つの論文としてまとめる過程にも携わることができ、充実した日々でした。まさにベッドサイドからベンチへ、そしてまたベッドサイドへと知見が広がっていくような、学生時代夢見た研究の一端に関わることができ、感慨深い思いです。そして、このようなtranslational researchは、研究にご協力いただいた患者さんをはじめ、外来・病棟の診療医、当科の様々な強みを持った研究者や実験助手さん、共同研究先の皆様など、多くの方のお陰で初めて成り立つことを実感しました。この場をお借りして感謝申し上げます。今後は、研究をさらに深めるとともに、研究成果を実際の臨床の現場に還元できるよう、引き続き尽力したいと思います。
基礎研究はハードルが高いと感じる若手の先生方も多いのではと思いますが、当科は上記の通り非常に恵まれた研究環境のもと、臨床とリンクした課題に取り組むことができますので、好奇心と熱意があれば心配いりません。興味を持たれたらぜひ見学にいらしてください!
山里怜央先生(平成31年 順天堂大学卒、令和5年度 大学院進学)
大学生の頃、初めて授業で膠原病・リウマチ科疾患について学んだ時、「なんだか不思議な病気だな」という感想を抱き、興味を持ちました。一つの病態によって全身に複数系統の異常所見が現れるというSystemicな要素や、腫瘍の様に特定の病巣が捉えづらい中で病態から徐々に診断に近づく過程が面白く、学生の頃からこの領域を専攻しようと考えていました。
順天堂大学を卒業後、そのまま大学附属病院で初期研修をし、膠原病・リウマチ内科をローテーションしました。この領域の疾患は「謎」に包まれた部分が多く、患者さんを診るたびたくさんの疑問が生じました。これらの疑問を本やインターネットで調べる中で、解決することもあれば、全然解決しない、というかそもそもどうやらまだ誰にもわかっていないこともあるようだ、と気づくことがありました。
この様に生じた臨床的疑問について、少しでも理解が深まり正解に近づけるのではないかなという、当初は割とざっくりした考えで東京大学の門を叩き、後期研修、大学院進学をさせていただきました。東大で計2年、市中病院で1年、後期研修を行いさまざまな疾患の患者さんと向き合いましたが、指導医の先生とは毎日ミーティングの機会があり、熱心なご指導と免疫学的な観点を踏まえた綿密なディスカッションのおかげで大変充実した研修となりました。
この過程で疾患の理解が深まると同時に疑問自体の解像度も上がり、単に知的好奇心のためでなく、究明することで社会に対して還元が可能な「謎」が沢山あることがわかりました。大学院に入学し、研究室に所属するようになると、基礎研究が中心となりますが、扱うテーマの多くはこういった臨床的に極めて重要なquestionと隣り合わせのものでした。私はまだまだ研究の成果をあげられてはおりませんが、先人が開拓してきた知見の荒野を少しだけでも切り開き、結果的に患者さん達の人生にひっそりと貢献できることを目標にしています。
付け足しの様ですが、病棟も研究室も非常に雰囲気がよく、人間的に魅力的な方々が集まっていると思います。また私を含め他大学出身の方も多くいらっしゃいます。指導も手厚く、大変良い環境で研究をさせて頂いていることを感謝する日々です。
牛島俊征先生(平成30年 東京大学卒、令和3年度 大学院進学)
私が大学院入学を決めたのは専攻医の最中でしたが、当時は自分の選択に不安もありました。
「臨床の勉強だけでも手一杯なのに、これに加えて実験や解析手法も学ぼうとするのは果たして現実的なのか、結局中途半端になるだけじゃないのか」
当時の私の偽らざる心境です。一方で、膠原病の診療を行うにつれ、難治症例のunmet needsを実感することも数多くありました。既存の医療を駆使するのみならず、新しい治療方法を模索する必要があると感じました。何か新しいこと、役に立つことを見つけられるかもしれない。わずかな期待と大量の不安を胸に、大学院へと入学しました。
当科では大学院一年生の間は病棟業務を担当し、二年生から四年生は研究に専念する形となります。研究が始まって以来、当科には独自の強みが数多くあることを実感しています。中でも、十年余の時間をかけて蓄積された末梢血免疫細胞の巨大なデータベースが存在していることや、解析を行うためのスーパーコンピュータへの簡単なアクセス、実験や解析の経験者にいつでも相談できる環境があることは大変な長所です。現代の研究はもはやバイオインフォマティクスを抜きにして語ることはできないものの、「じゃあこのFASTQデータをmappingしたあとにクラスタリングして次元削減の図を作ってみようか。バッチ効果に気をつけてね」などといきなり言われても、何が何やら分からないのが普通だと思います。研究開始当初の私も分からないことだらけでしたが、先輩方はどのようなことでも気さくに教えてくれました。
当科で扱う研究内容は多彩ですが、私自身はSLE患者のB細胞受容体に関する解析を行っています。色々と苦労はあるものの、新しいことを見つけて「こんな風に治療に応用できるんじゃないか」と想像を巡らせる高揚感は、何にも代えがたいものがあります。
医師のキャリアにおいて、大学院へ入学するかどうかは大きな岐路かと思います。
絶対に入った方が良いとも、止めておいた方が良いとも断言はしがたいですが、大学院でしか得られない知見は明らかに存在します。もし興味があれば、あるいはなんとなく話を聞いてみたいというだけでも、ぜひ気軽にご連絡ください。お会いできる日を楽しみにしています。