Duboi’s LupusをベースにSLE診療を考える勉強会
2019年
2019年11月5日
<Learning Issue>
「SLEにおいて自己抗体自身には病原性があるのか?」
<Dubli’s Lupus記載の要点>
- 約85%のSLE患者で初期症状が出る平均2-3年前、長くて9年前に自己抗体産生を認める。
- 自己抗体の中では、抗核抗体が最初につくられ、その後抗DNA抗体と抗リン脂質抗体、最後に抗Sm抗体と抗体RNP抗体がつくられる。
- これらの報告から、初期のうちは病原性のある自己抗体がつくられるもそれに対する抑制機構がはたらき、その抑制機構が破綻した際に病気が発症することが想定される。
- 以上の記載から、自己抗体には病原性がある可能性があり、以下のマウスモデルでも自己抗体による病原性が証明されている。
- 抗DNA抗体を健常マウスに移入すると腎炎を発症する。
- 神経細胞のレセプターに対する抗体 (抗DNA抗体のサブセットの1つである抗N-methyl-aspartate receptor抗体) が神経細胞死を引き起こす。
- 血小板や赤血球に対する抗体が存在すると、貪食され破壊されやすくなる。
- 抗SS-A/SS-B抗体が胎児の伝導系に作用し心ブロックを起こす。
- ヒトの抗リン脂質抗体が、血栓形成を促進しマウス、ヒト両方において胎児死亡を起こす。
- 自己抗体はT細胞により認識されるアミノ酸配列を有し、これらの配列をもつペプチドがヘルパーT細胞を活性化し、結果として抗体産生を増強する。
- SLE患者の免疫複合体は貪食細胞から貪食され除去されることを防ぐために可溶性であり、組織に捉えられやすくなっている。
<Learning Issueの回答案>
→「SLEにおいて自己抗体自身は直接的、間接的な病原性を有する」
<関連する質疑>
1. 医師が介入しやすい環境因子として, SLEにおいて禁煙は重要であるか?
→「特に現在の喫煙が、SLEの発症と疾患活動性、臓器障害と関連し、一部の治療薬による効果も減弱させる」
参考文献:
- Case-control studyによる現在の喫煙または過去の喫煙歴がSLE、discoid lupus発症のリスクとなることを示した論文(Ann Rheum Dis. 1998;57(8):451-455., J Rheumatol. 2001;28(11):2449-2453., Mod Rheumatol. 2006;16(3):143-150., Dermatology. 2005;211(2):118-122.)
- メタアナリシスによる喫煙とSLE発症リスクとの関連を評価した論文(Arthritis Rheum. 2004;50(3):849-857., Clin Rheumatol. 2013;32(8):1219-22.)
- 日本からのCase-control studyで、喫煙とCYP1A1とGSTM1の2つの遺伝子多型の組み合わせがSLEの疾患感受性と関連を示唆した論文(Scand J Rheumatol. 2012;41(2):103-109.)
- 喫煙とSLEの疾患活動性との関連を示唆した論文(Arthritis Care Res (Hoboken). 2013;65(8):1275-1280., PLos ONE. 2015;10(8):e0134451., Arthritis Rheumtol. 2016;68(2):441-448.)
- 喫煙と自己抗体産生の関係を示唆した論文(Ann Rheum Dis. 2006;65(5):581-584., Ann Rheum Dis. 2015;74(8):1537-1543.)
2. エストロゲンがSLE発症や再燃に寄与するとのことだが, ホルモンが減少する閉経後にSLEの疾患活動性が低下または再燃が少ないということはあるか?
→「閉経後に疾患活動性が低下する報告はあるが、必ずしもホルモンの影響と断定はできず、閉経後に治療強化は保留とするまでの十分なエビデンスは現時点でない」
参考文献:
- SLEのマウスモデルの卵巣除去による活動性低下の論文(J Exp Med. 1978 Jun 1;147(6):1568-83.)
- CYにより誘発された早期卵巣不全SLE患者では卵巣機能温存患者と比してSLEの再燃が少ないという論文(Arthritis Rheum. 1999 Jun;42(6):1274-80.)
- 閉経後のSLEの疾患活動性の変化を示唆した論文(Am J Med. 2001 Oct 15;111(6):464-8., J Rheumatol. 2006 Nov;33(11):2192-8.)
3. SLEで女性が多いのはなぜか?
→「X染色体の量と関係があるかもしれない」
参考文献:
- 男性のSLEまたは非SLE患者におけるKleinefelter症候群罹患率の比較をした論文(Arthritis Rheum. 58:2511-2517 2008.)
- Turner症候群のSLE罹患率の推測となる論文(J Autoimmun. 33:31-34 2009.)
- XXマウスではXY-マウスと比較し、生存率が低下し、腎病変の程度も重症で、抗dsDNA抗体価が高値であることを示した論文(J Exp Med. 205:1099-1108 2008 18443225)
- Humanizedマウスを用いた実験で、エストロゲンとX染色体のDosageがTLR7刺激後のpDCからのI型インターフェロン産生亢進の関係を示唆した論文(J Immunol. 193 (11):5444-5452 2014)