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疾患解説

ベーチェット病 (Behçet’s disease; BD)

1.疾患概念と疫学

ベーチェット病(Behcet’s disease, BD)は、再発性口腔内アフタ性潰瘍、皮膚症状、外陰部潰瘍、眼病変を4大主症状とする炎症性疾患である。特殊な場合を除き、一定の部位の炎症が慢性に持続するのではなく、急性の炎症が反復し、増悪と寛解を繰り返しつつ遷延した経過をとるのが特徴である。特殊病型として腸管ベーチェット病、血管ベーチェット病、神経ベーチェット病の3病型がある。
BDの病態のひとつとして血管炎が想定されおり、Chapel Hill Consensus Conference 2012改訂でも多彩な血管に障害をきたす疾患として挙げられている。実際に、BD患者の口腔潰瘍、外陰部潰瘍、結節性紅斑、ぶどう膜炎、副睾丸炎、腸炎、中枢神経系の組織において、血管炎の存在が証明されている。また、BD患者においては好中球機能亢進がみられる。針反応による発赤を含む活動性病変部位には、感染が存在しないにもかかわらず好中球が浸潤している。前眼部型の前房蓄膿性虹彩炎も好中球機能亢進による。BD患者由来の好中球は、活性酸素産生・走化能・ライソゾーム酵素産生亢進を示し、組織破壊に寄与する。
BDは地中海沿岸東部諸国、中近東、中央アジア、東アジア、日本といった帯状のシルクロードに沿った地域に多く、欧米で少ない。有病率(人口10万人当たりの患者数)はトルコ, 日本(1991年) 13.6, 米国 0.12-0.33, イギリス 0.5である。性比も国別に異なり、トルコ・ギリシャは男性に多く、ドイツ・米国は女性が多い。日本では男女同数程度。
BDの遺伝的な要因が報告されている。ゲノムワイド関連解析の結果から、HLA-B51、ERAP1、CCR1、STAT4などの免疫関連遺伝子が発症リスクとして同定されている(Kirino Y, et al. Nat Genet. 2013)。

2.臨床症状

BDの症状は主症状と副症状に分けられる。主症状は診断上重要で高頻度で生じ、副症状は重篤な臓器症状に関与する。種々の症状が経時的に出現・消退することが多い。女性は粘膜皮膚症状、男性は眼・内臓病変が多い。以下の症状の横に発現頻度を示す。

1) 主症状

(1) 口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍  97-100%

ほぼ必発で、初発症状である場合が多い。口唇、歯肉、頬粘膜、舌、咽頭に生じる2-10mmの有痛性境界鮮明な浅い潰瘍であり、しばしば灰色の滲出物に覆われ、紅暈がみられる。大きなアフタでなければ、数日から2週間ほどで瘢痕を残さず消失する。慢性的に再発を繰り返し、他の症状を伴わずに何年も経過することもある。口腔咽頭部、軟・硬口蓋のアフタ発現はBD以外では少ない。

(2) 皮膚症状 80-90%
(3) 眼症状 50-70%

通常BD発症後2-3年で眼病変を呈する。BDの眼症状の特徴は、反復するぶどう膜炎発作である。発現率は男性がより高率であり、視覚予後も女性より不良である。

(4) 外陰部潰瘍 70%

陰嚢、陰茎、大・小陰唇、膣壁などに出現する。外陰部潰瘍は口腔潰瘍に似ており、有痛性で瘢痕を残しうる。

2) 副症状

(1) 関節炎 50%

四肢の大小関節に非対称に出現し、約1-2週で消失する。関節の変形・強直や骨破壊は認められないことが多い。初発症状にもなりえる。

(2) 副睾丸炎 5%

男性BDの約6%に出現する。通常、再発する圧痛と腫脹をきたす。

(3) 消化器病変 15%

定型的な消化器病変が主な臨床症状であるBDを腸管(interstinalまたはentero)BDとよぶ。類円形の下掘れ、あるいは瘻孔状の深い多発性の潰瘍が定型的で、強い細胞浸潤を伴う急性炎症の像を呈する。回盲部病変が最も高頻度に認められるが、食道から直腸までのすべての部位に病変を生じうる。腹痛、下痢、下血を伴い、時に穿孔を生じる。消化器病変の発症頻度は人種間で異なり、特に日本人に高い。炎症性腸疾患との鑑別が問題となることがある。

(4) 血管病変 8%

血管病変が主な臨床症状であるBDを血管(vascular-)BDと呼ぶ。動静脈のさまざまな径の血管に炎症をきたしうる。

(5) 中枢神経病変 10%

中枢神経病変が主な臨床症状であるBDを神経(neuro-)BDと呼ぶ。BDの発病後、数年以上を経た時期に出現することが多く、男性に多い。ただしBDの発症と同時に髄膜脳炎を呈する症例もある。脳実質の炎症性病変に起因する神経BDの精神神経症状は、その主要な症候が小脳・脳幹部および大脳基底核の障害に基づく点に大きな特徴があり、神経病変の分布、寛解と増悪を繰り返す臨床経過は多発性硬化症と類似し、鑑別が困難な場合もある。神経BDは臨床的に急性型 ( ≈ Attacks and remissions),慢性進行型( ≈ primary progression : 発現時にattackがなく徐々に進行, secondary progression : attackを繰り返し階段状に進行、attackがない時も進行)に分けられる。いくつかの研究において、シクロスポリン服用が神経症状発現の一つの危険因子であることが明らかにされている。

① 急性型神経BD

発熱・頭痛を伴った髄膜炎や脳炎様の症状を伴うことが多い。これに片麻痺や脳神経麻痺などのさまざまな脳局所徴候を伴うこともある。頭部MRIが有用で、一般に障害部位ではT2協調画像、FLAIR画像において高信号域として描出される。髄液検査では細胞数の増加および蛋白濃度の中等度以上の上昇を示す。細胞分画では好中球の割合が増加する。髄液interleukin(IL)-6が著明に上昇することが多く、この点で多発性硬化症と大きく異なる。急性型では、症状の軽快と一致して髄液の細胞数・蛋白濃度は改善し、これと並行して髄液IL-6も低下する。厚生労働省班会議による1988年から2008年までに神経症状を示したBD 142例のコホート研究では急性型と非神経BDの比較において、髄液細胞数18.5/μlをカットオフとした場合、感度96.5%、特異度96.7%で急性型を診断できたとされる。

② 慢性型神経BD

慢性型の神経BDの中には、副腎皮質ステロイドを含む種々の治療にも抵抗性を示し、認知障害や精神症状が進行し、ついには人格の荒廃をきたす予後不良な一群がある。慢性進行型の臨床症状の特徴は、急性型と類似した脳の局所徴候や髄膜炎、脳炎症状が先行症状として一過性に出現したのちに、徐々に認知力低下、精神症状、人格変化が進行する。脳神経系症状としては、小脳失調による歩行障害、構音障害、排尿障害が出現し、これらも徐々に進行する。患者背景として、慢性型神経BDは男性に圧倒的に多く(90%以上)、HLA-B51は90%強が陽性である。画像検査では急性型神経BDと同様の所見のほか、脳幹部・大脳・小脳の萎縮を伴うことがある。髄液中の細胞数増加や蛋白濃度はごく軽度上昇か正常であるにもかかわらず、持続的に髄液中のIL-6が異常高値(20pg/ml以上)を示すことが特徴である(Hirohata S, et al. Clin Immunol Immunopathol. 1997.82:12-17)。

3.検査

1) 採血検査:BDの活動期には末梢血白血球数の増多・血沈の促進・血清CRP陽性・血清補体価の上昇などが見られる。抗核抗体などの自己抗体は通常陰性である。

2) HLA-B51

3) 針反応:20-22Gの比較的太い注射針を用いること。

4) 病理学的検査:皮膚生検。好中球性の炎症、隔壁性脂肪織炎、血管炎

5) 眼科診察:虹彩毛様体炎、網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)、続発性眼病変(白内障・緑内障など)

6) 特殊病型の検査

腸管:便潜血、消化管内視鏡
血管:造影CT, MRI, FDG-PET, 静脈エコー, 血管造影
神経:頭部MRI, 髄液検査(IL-6)

4.診断

2003年に厚生労働省研究班により、診断基準の改訂版が作成された(表1)。参考となる検査にprick test for dead Streptococciが追加となった。活動性を評価する活動期分類(表2)および重症度を評価する重症度基準(表3)も作成された。4主症状を示す「完全型」とそうではない「不全型」、主症状の一部が出現する「疑い」、「特殊病型」として、腸管の潰瘍性病変を示す腸管ベーチェット、大小の動静脈の病変をきたす血管ベーチェット、脳幹・小脳・大脳白質の病変を主体とする神経ベーチェットが定義されている。一方、BDの国際診断基準では、皮膚の針反応pathergy testの陽性所見が診断上重要とされている(表4) [5]。針反応はBDに最も特異性の高い検査であり、皮膚の被刺激性の亢進を反映する。無菌の注射針を前腕部の皮膚に刺入し、24-48時間後に同部の発赤・膿胞の形成を認めれば陽性である。出現頻度は40%程度。HLA-B51の陽性は参考所見である。ただし、この国際診断基準には特殊病型の記載がない。


表1)厚生省特定疾患調査研究班のベーチェット病臨床診断基準(2003年改訂)
下線部分が1987年からの改訂部分

1.主症状

(1)口腔粘膜の再発性アフタ潰瘍

(2)皮膚症状

    1. 結節性紅斑様皮疹
    2. 皮下の血栓性静脈炎
    3. 毛嚢炎様皮疹、ざ瘡様皮疹
       参考所見:皮膚の被刺激性亢進

(3)眼症状

    1. 虹彩毛様体炎
    2. 網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)
    3. 以下の所見があれば、a.b.に準じる。

a.b.を経過したと思われる虹彩後癒着、水晶体上色素沈着、網脈絡膜萎縮、視神経萎縮、併発白内障、続発白内障、眼球ろう

(4)外陰部潰瘍

2.副症状

(1)変形や硬直を伴わない関節炎

(2)副睾丸炎

(3)回盲部潰瘍で代表される消化器病変

(4)血管病変

(5)中等度以上の中枢神経病変

3.病型診断の基準

(1)完全型

経過中に4主症状が出現したもの

(2)不完全型

    1. 経過中に3主症状、あるいは2主症状と2副症状が出現したもの
    2. 経過中に定型的眼症状とその他の1主症状、あるいは2副症状が出現したもの

(3)疑い

主症状の一部が出没するが、不全型の条件をみたさないもの、および定型的な副症状が反復あるいは増悪するもの

(4)特殊病型

      1. 腸管(型)BD 腹痛・潜血反応の有無を確認する。
      2. 血管(型)BD 大動脈、小動脈、大小静脈障害の別を確認する。
      3. 神経(型)BD 頭痛、麻痺、脳脊髄症型、精神症状などの有無を確認する。

4.参考となる検査所見(必須ではない)

(1)皮膚の針反応の陰・陽性

20-22Gの比較的太い注射針を用いること。

(2)連鎖球菌ワクチンによるプリックテストの陰・陽性

連鎖球菌に対する過敏反応
ベーチェット病の患者の多くはStreptcoccus sanguisをはじめとする口腔内連鎖球菌に強い過敏反応を示すことから、連鎖球菌死菌抗原によるプリックテスト(細いツ反用、26G)で20-24時間後に強い紅斑反応としてみることができる。 

(3)炎症反応

赤血球沈降速度の亢進、血清CRPの陽性化、末梢血白血球数の増加

(4)HLA-B51(B5)の陽性(60

(5)病理所見

急性期の結節性紅斑様皮疹では、中隔性脂肪組織炎で浸潤細胞は多核白血球と
単核球の浸潤による。初期に多核球が多いが、単核球の浸潤が中心で、いわゆるリンパ球性の血管炎の像をとる。全身的血管炎の可能性を示唆する壊死性血管炎を伴うこともあるので、その有無をみる。

参考所見

①主症状、副症状とも、非典型例は取り上げない。
②皮膚症状のa.b.c.はいずれも多発すれば1項目でもよく、眼症状もa.b.どちらでもよい。
③眼症状について
虹彩毛様体炎、網膜ぶどう膜炎を経過したことが確実である虹彩後癒着、水晶体上色素沈着、網脈絡膜萎縮、視神経萎縮、併発白内障、続発白内障、眼球ろうは主症状として取り上げてよいが、病変の由来が不確実であれば、参考所見とする。
④副症状について
副症状には鑑別すべき対象疾患が非常に多いことに留意せねばならない(鑑別疾患の項参照)。鑑別診断が不十分な場合は参考所見とする。
⑤炎症反応の全くないものは、BDとして疑わしい。またBDでは補体価の高値を伴うことが多いが、γグロブリンの著しい増量や自己抗体陽性などは、膠原病などをむしろ疑う。
⑥主要鑑別対象疾患

  1. 粘膜、皮膚、眼をおかす疾患
    多形滲出性紅斑、急性薬物中毒、Reiter病
  2. BDの主症状の一つをもつ疾患
    口腔粘膜症状
     慢性再発性アフタ症、Lipschütz病(陰部潰瘍もある)
    皮膚症状
     化膿性毛嚢炎、尋常性ざ瘡、結節性紅斑、遊走性血栓性静脈炎、単発性血栓性静脈炎、Sweet病
    眼症状
     転移性眼内炎、敗血症性網膜炎、レプトスピローシス、サルコイドーシス、強直性脊椎炎、中心性網膜炎、青年再発性網膜硝子体出血、網膜静脈閉塞症
  3. BDの主症状および副症状と紛らわしい疾患
    口腔粘膜症状
     ヘルペス口唇・口内炎(単純ヘルペスウイルス1型感染症)
    外陰部潰瘍
     単純ヘルペスウイルス2型感染症
    結節性紅斑様皮疹
     結節性紅斑、バザン硬結性紅斑、サルコイドーシス、Sweet
    関節炎症状
     RA, SLE, PSSなどの膠原病、痛風、乾癬性関節症
    消化器症状
     急性虫垂炎、Crohn病、潰瘍性大腸炎、急性・慢性膵炎
    副睾丸炎
     結核
    血管系症状
     高安病、Buerger病、動脈硬化性動脈瘤、深部静脈血栓症
    中枢神経症状
     感染性・アレルギー性の髄膜・脳・脊髄炎、SLE、脳・脊髄の腫瘍、血管障害、梅毒、
     多発性硬化症、精神疾患、サルコイドーシス

表2)ベーチェット病の活動期分類

  1. 活動期
    ぶどう膜炎、皮下血栓性静脈炎、結節性紅斑様皮疹・外陰部潰瘍(女性の性周期に連動したものは除く)、関節炎症状、腸管潰瘍、進行性の中枢神経病変、進行性の血管病変、副睾丸炎のいずれかが認められ、理学所見(眼科的診察所見を含む)あるいは検査所見(血清CRP、髄液所見、腸管内視鏡所見など)から炎症徴候が明らかなもの。口腔内アフタ性潰瘍、皮膚・外陰部潰瘍および眼症状については、それぞれ下記のscore 2以上を示す場合を活動期BDとする。
  2. 非活動期
    活動期の定義に当てはまらないもの。
    (注1)活動期には一般に治療薬剤の増量、変更、追加が必要となる。
    (注2)口腔粘膜のアフタ性潰瘍、毛嚢炎様皮疹のみの症状の場合は活動性判定のよりどころになりにくいので、その他の症状あるいは既往症状を考慮して慎重に判定することが望ましい。
  3. 活動指数
    (1)口腔内アフタ性潰瘍
    score 0 : なし
    score 1 : 最近の4週のうち症状が存在したのは2週未満である
    score 2 : 最近の4週のうち症状が存在したのは2週以上である
    score 3 : 最近の4週のうちほとんどに症状が存在した

    (2) 皮膚(結節性紅斑様皮疹)・外陰部潰瘍
    score 0 : なし
    score 1 : 最近の4週のうち症状が存在したのは2週未満である
    score 2 : 最近の4週のうち症状が存在したのは2週以上である
    score 3 : 最近の4週のうちほとんどに症状が存在した

    (3)眼症状(ぶどう膜炎)
    score 0 : なし
    score 1 : 最近の4週のうち症状が存在したのは2週未満である
    score 2 : 最近の4週のうち症状が存在したのは2週以上である
    score 3 : 最近の4週のうちほとんどに症状が存在した

    (4)その他の症状
    ① 関節炎症状:関節炎、腫脹の有無、歩行困難、変形の出現など
    ② 消化器病変:急性・慢性腹痛、下血または潜血反応
    ③ 副睾丸炎:疼痛、腫脹の有無
    ④ 血管系病変:心大動脈障害、中血管閉塞、小血管閉塞、血栓性静脈炎など
    ⑤ 中枢神経病変:頭痛、めまい、四肢麻痺、精神症状など

(表3)ベーチェット病の重症度基準
Stage  内容
Ⅰ   眼症状以外の主症状(口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚潰瘍、外陰部潰瘍)のみられるもの。
Ⅱ StageIの症状に眼症状として虹彩毛様体炎が加わったもの。
  StageIの症状に関節炎や副睾丸炎が加わったもの。
Ⅲ 網脈絡膜炎がみられるもの。
Ⅳ 失明の可能性があるか、失明に至った網脈絡膜炎およびその他の眼合併症を有するもの。活動性、ないし重度の後遺症を残す特殊病型(腸管BD、血管BD, 神経BD)である。
Ⅴ 生命予後に危険のある特殊病型BDである。中等度以上の知能低下を有す進行性神経BDである。
Ⅵ 死亡(a. BDの症状に基づく原因 b.合併症によるものなど、原因を記載すること)

  1. StageI, Ⅱについては活動期(下記参照病変が1年間以上見られなければ、固定期(寛解)と判定  するが、判定基準に合わなくなった場合には固定期から外す。
  2. 失明とは、両目の視力の和が0.12以下もしくは両眼の視野がそれぞれ10°以内のものをいう。
  3. ぶどう膜炎、皮下血栓性静脈炎、結節性紅斑様皮疹、外陰部潰瘍(女性の性周期に連動したものは除 く)、関節線症状、血管潰瘍、進行性の中枢神経病変、進行性の血管病変、副睾丸炎のいずれかがみられ、 理学所見(眼科的診察所見を含む)あるいは検査所見(血清CRP, 血清補体価、髄液所見、腸管内視鏡 所見)から炎症徴候が明らかなもの。

(表4)ベーチェット病の国際診断基準(1990年) 
(Lancet. 1990. 335:1078-1080.)

再発性口腔内潰瘍形成
医師または患者の観察による小アフタ性、大アフタ性、またはヘルペス状の潰瘍形成が12ヶ月間に少なくとも3度出没すること

再発性口腔内潰瘍形成があり、さらに次の4項目ののち2項目存在するときに、その患者はBDであるといえる。

再発性外陰部潰瘍形成
医師または患者の観察によるアフタ性潰瘍形成、または瘢痕形成

眼病変
前部ぶどう膜炎、後部ぶどう膜炎、またはスリットガラス検査で硝子体内に細胞の証明、あるいは眼科医の診察による網脈絡膜炎

皮膚病変
医師または患者の観察による結節性紅斑、毛嚢炎様皮疹または丘膿疹病変あるいは、コルチコステロイド治療を行っていない思春期以後の患者で医師により観察されるざ瘡様結節

Pathergy test(針反応)陽性
 24-48時間後に医師により観察されたもの

注)これらの項目は他疾患を除外できたときにのみ適用する

5.治療

2008年、トルコのリウマチ専門医が中心となりヨーロッパリウマチ学会 (EULAR)から、ベーチェット病治療の推奨が報告され (Hatemi G, et al. Ann Rheum Dis. 2008.67:1656-1662.)、さらに2018年にupdateされ、TNF阻害薬の適応についての記載が増えた(Hatami G, et al. Ann Rheum Dis. Epub ahead)(図5)。ランダム化コントロール試験で有効性が証明されたものは少なく、特に血管型、腸管型、神経型に関する推奨のエビデンスレベルは必ずしも高くない。日本の現状との相違についても理解しておく必要がある。特に眼病変に対する治療は大きく異なり、抗TNFα抗体が非常に効果的である。BDは通常、寛解と増悪を繰り返すが、眼症状と重篤な臓器病変がなければ予後はよいといえる。一般的に発病後3-7年で病勢は極期に達し、10年以上経過すると寛解傾向となる。

1)治療の基本方針
薬物療法にはコルヒチン、ステロイド、免疫抑制薬、抗TNFα抗体などが用いられている。重篤な視力障害を残しうる眼病変、生命予後に影響を及ぼす特殊病型(神経・血管・腸管ベーチェット)に対して積極的な免疫抑制療法を行うが、口腔内潰瘍、陰部潰瘍、皮膚病変に対しては原則としてステロイドの外用を中心とした局所療法またはコルヒチンの内服で対処する。

  1. コルヒチン:細胞の微小管の機能を抑制することにより、好中球の化学走化性を阻害する。眼・皮膚・外陰部潰瘍・口腔内アフタに有効である。急性増悪症状を繰り返す場合、局所療法に加え、コルヒチンが約60%に有効である。2001年に二重盲検により、1-2mgのコルヒチンは男性では関節炎に、女性では外陰部潰瘍、結節性紅斑、関節炎に有効であることが示された。副作用に下痢がある。妊娠時にも、コルヒチンの継続が、妊娠の転帰に影響しないとの報告も散見され、必要に応じて継続できる可能性がある。男性については、無精子症が報告されているため、挙児を希望する男性への使用は可能な限り避けたほうが良いと思われる。
  2. NSAID: 関節痛・副睾丸炎・結節性紅斑に対してNSAIDsを用いることがあるが、ガイドライン上の記載からは外れている。
  3. ステロイドを含む外用薬:口内炎にケナログ軟膏等、陰部潰瘍や結節性紅斑・毛嚢炎に対してはリンデロン-VG軟膏などを用いる。
  4. ステロイド:発熱・強い疼痛を伴う皮疹、粘膜障害を認める場合、短期のプレドニン15~30mg/日程度を使用することがある。また、神経・血管・腸管病変など重要臓器障害を伴う場合には、中等量から大量の投与が行われる(30-60mg/日)。なお急速減量により眼発作が誘発されているといわれており注意が必要である。

2)病態に応じた治療

  1. 眼病変
    虹彩毛様体炎型に対しては、散瞳薬点眼、ステロイドの点眼や結膜下注射などの局所治療がまず行われる。アザチオプリンはEULAR recommendationsでRCTもあり推奨されているが、実地臨床では効果が薄いとのことで本邦ではあまり用いられない。特に発作時、局所・内服ステロイドが用いられるがRCTはない。炎症を早期に抑制するが、白内障・緑内障などの合併症に注意。
    網膜ぶどう膜炎型では、ステロイド局所治療でコントロール不十分であれば、シクロスポリンか抗TNFα抗体が使用される。シクロスポリンは2-5mg/kg/dayで使用、トラフ150ng/ml程度を目標。視力を改善し、眼発作の頻度・重症度を低減する。腎障害、高血圧誘発、神経症状の発現に注意(神経病変の項を参照)。抗TNFα抗体(インフリキシマブ,アダリムマブ)は多剤抵抗性、再発性の炎症性眼病変で用いられ高い有効性がみられている。投与時には潜在性結核などのスクリーニングが必要である。
  2. 神経病変症例
    急性型に対しては、発作に対してはステロイドパルス後、高容量ステロイドを用いる。慢性型に対しては、発作時はステロイドで治療、間欠期はメソトレキサートの少量パルス療法が有用であることが示されている(Hirohata S, et al. J Neurol Sci. 1998. 159:181-185.)。脱髄に注意しつつ抗TNFα阻害薬を使用する場合もある。MMFの使用報告もある。髄液中のIL-6が20pg/ml以下を治療目標とする。
  3. 腸管病変
    潰瘍性病変に対して、急性期は高容量ステロイドを用いる。状態に応じ絶食、輸液、低残さ食など。穿孔した場合は外科適応。慢性期はAZPや炎症性腸疾患に準じて5-ASA製剤を用いることがある。治療抵抗性の病態にTNFa阻害薬が奏効した報告がみられ、IFXについては30週後の奏効率50%と報告されている(Lee JH, et al. Inflamm Bowel Dis. 2013. 19:1833)。
  4. 血管病変
    BDの静脈血栓の病理は血管壁の炎症である。急性血栓性静脈炎・深部静脈血栓症に対してはステロイド、AZPなどの免疫抑制剤を使用することがある。抗凝固薬についてコンセンサスはないが、血栓の状況を見て使用されることがある。
    大血管炎、動脈瘤、肺動脈瘤に対しては、高容量ステロイドが用いられる。併用薬として、従来はシクロフォスファミド(IVCY)が用いられることがあったが、近年ではTNFa阻害薬が用いられることもある(Adler S, et al. Arthritis Care Res. 2012. 64:607-11)。

(表5)Eular recommendations (Hatemi G, et al. Ann Rheum Dis. 2018.)
オーバービュー

1.皮膚・粘膜病変

2.眼病変

3.孤発性前部ぶどう膜炎

4.急性深部静脈血栓症

5.治療抵抗性の静脈血栓

6.動脈病変

7.腸管病変

8.治療抵抗性/重症の腸管病変

9.神経病変

10.関節病変

平成 30年 7月

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