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疾患解説

気管支喘息

1.疾患概念と疫学

気管支喘息(以下、喘息)は、繰り返し起こる、発作性の咳、喘鳴、呼吸困難を症状とし、慢性気道炎症を背景に、気道過敏性の亢進や、可逆性の気流制限を伴う疾患である。通常は好酸球性気道炎症であり、アトピー素因の存在は診断の補助となる。

病型 
アトピー型と非アトピー型に分類できる。アトピー型は環境アレルゲンに対する特異的IgE抗体が存在するもので、非アトピー型はそれが存在しないものである。アトピー型では、ヒョウヒダニに対する特異的IgE抗体が存在する頻度が高い。
 
疫学
・有症率 小児11-14%、成人6-10% (平成15年保健福祉動向調査)
・喘息有症率の経年変化:喘息の有症率は、近年急速に増加している。
・男女比:国際的にも若年齢ほど男性優位で、思春期以後は女性優位となる。
・発症年齢:小児喘息では乳児期発症が多く、成人喘息では中高年発症(初発)が多い。
・家族歴 喘息患者の家族歴にはアレルギー疾患が多く、喘息を持つ比率が高い。
・喘息死の動向:年間死亡者数は1550人(平成26年)、徐々に減少傾向。若年齢での喘息死亡率の低下は著しい。喘息死の90%以上は65歳以上の高齢者である。

喘息の危険因子
個体因子&環境因子に分かれる。
個体因子
遺伝素因:両親の喘息→発病リスク3〜5倍
GWAS解析より:IL1RL1、ORMDL3、IL33、IL6R、TSLP
 アレルギー素因(アトピー)
 気道過敏性、性差、出生時低体重、肥満
環境因子
発病因子
  アレルゲン,呼吸器感染症,大気汚染,喫煙(能動,受動),食品,寄生虫感染,薬物,鼻炎
 増悪因子
  アレルゲン,大気汚染,感染症,運動/過換気,喫煙,気象,食品,薬物, 感情表現/ストレス,刺激物質(煙etc)Sox,月経, (妊娠),肥満,アルコール,過労

喘息における気道炎症の機序(病理所見)
気管支粘膜内:好酸球、単核球、マスト細胞や他の炎症細胞の浸潤
気道上皮の剥離
毛細血管透過性の亢進、粘膜浮腫、血管新生
リモデリング 
気道上皮基底膜直下線維化、粘膜下腺/杯細胞過形成、気管支平滑筋の肥厚

2.身体所見

1) 呼吸音、呼吸状態:典型的には呼気終末のwheezing
 急性増悪時には呼吸音低下、胸部hyperinflation
 吸気時wheezingやstridor →上気道狭窄の評価
2) そのほかの所見
・皮膚所見 アトピー性皮膚炎、湿疹などアレルギー性皮膚炎の合併
・副鼻腔炎の確認
・難治性喘息では、EGPA合併例があり、皮膚、神経所見等にも注意。

3.検査所見

1) アレルギー状態の評価
・病因の推定(問診が重要)特定の抗原暴露、薬物、運動などに続いて症状が発生するか。
 □薬物(アスピリン喘息はあるか?) □運動 □アルコール □ペット飼育  
 □食物 □喫煙(能動、受動)  □職業(粉塵暴露)
・他のアレルギー性疾患合併の確認 
 □アレルギー性鼻炎 □アレルギー性結膜炎 □アトピー性皮膚炎 □食物アレルギー
・総IgE, 抗原特異的IgE抗体(RAST: 1項目110点、13項目まで)
 □ハウスダスト1 □(春)スギ、ヒノキ □(夏)カモガヤ、ハルガヤ
 □(秋)ブタクサ、ヨモギ □シラカバ(OAS, バラ科:りんご、いちご)
 □MAST33/View36(33-36項目同時アレルゲン検査):当院未契約
 □特異的IgG抗体検査(食物抗原)は診断意義なし(アレルギー学会)
・喀痰好酸球 喀痰の細胞診検査で評価。好酸球性気道炎症の指標となる。
——————以下は診断に有用ですが、当院では一般的には行っていません—————
・プリックテスト、スクラッチテスト、皮内テスト 
 陽性のときは特異的IgE抗体を有することを示唆する。

2) 呼吸機能の評価 
・スパイロメトリー 1秒率(FEV1.0%)<70%で閉塞性障害と診断される。
・気道可逆性試験 気管支拡張薬の吸入前後に1秒量を測定し、その改善の割合から気道可逆性の程度を判定する。試験前に、多くの喘息治療薬を一時中止することが望ましく、薬剤毎に具体的な中止時期がある。
吸入前後の1秒率が12%改善、かつ改善量が200ml以上で、有意な可逆性と判定。
・ピークフロー PEFメーターによるPEFは1秒率とよく相関し、どこでも測定可能なため、日常 の喘息を把握する指標として喘息の自己管理に有用である。
・気道過敏性試験 アセチルコリン・メサコリン・ヒスタミンなどの気管支収縮薬を低濃度から 濃度を上げて吸入負荷。気道抵抗上昇や一定の1秒量低下に要する薬物濃度を測定する。
・呼気NO濃度 肺気腫との艦別に有用(> 35ppb)。アレルギー性鼻炎も上昇しうる。
——————以下は診断に有用ですが、当院では一般的には行っていません—————
・抗原吸入誘発試験 (抗原、薬物など)  
 病因と考えられる抗原エキスを低濃度から順次濃度を増加して吸入。
 1秒量が20%低下した時を陽性とする。
 重症発作、アナフィラキシーショックに注意し、それに対応できる用意が必要。
・環境暴露試験 病因抗原の存在する環境に入る前後の1秒量、PEF値を測定。
 20%以上の低下で陽性。

3) その他の検査
・痰 培養、細胞診 (感染の除外、好酸球の有無)
・胸部Xp、胸部CT (必要に応じて)
・血液ガス
・血算、白血球分画 (cf好酸球増多症:好酸球数≧1500/μlが6カ月以上継続)
・鼻ポリープ、副鼻腔の検索、中耳炎→耳鼻科コンサルト 
 (アスピリン喘息、好酸球性副鼻腔炎、好酸球性中耳炎)
 ‘One airway, one disease’ 上気道から下気道は関連性を持ち、互いに影響しあう。
・尿中LTD4 (アスピリン喘息で上昇)
・上部消化管内視鏡 (胃食道逆流、好酸球性胃腸炎の検索等)

4.診断

“All that wheezes is not asthma.”
一般に、喘息の臨床診断は、①発作性の呼吸困難、喘鳴、胸苦しさ、咳などの症状の反復、②可逆性の気流制限、③他の心肺疾患などの除外(表1)による。COPDや心不全を合併している場合には診断が困難となるが、以下のような点に注目して鑑別を行う。

  1. 発作性の呼吸困難、喘鳴が夜間、早朝に出現
  2. 症状が喘鳴治療薬で改善 
  3. 特定原因で症状が誘発
  4. 可逆性の気流制限 PEF日内変動20%以上、β2刺激薬吸入により1秒量が12%以上かつ200ml以上増加 (注:リモデリングを生じると気道可逆性は消失しうる)
  5. 気道過敏性の亢進
  6. アトピー素因の存在
  7. 好酸球性気道炎症の存在 喀痰中の好酸球比率増加 (呼気NO濃度上昇)

5.治療

1)国内における主な基本治療薬 Controller Medicationsの種類

主なICSの相違点
ICSの吸入デバイス
 自己の吸気によるドライパウダー吸入(DPI)と、代替フロンガス(HFA)を基剤にする噴霧式定量吸入(pMDI)がある。
<ICSの吸入粒子径と効果・副作用>
1μm<BDP-HFA=CIC-HFA<MF-DPI<BUD-DPI<FP-HFA<FP-DPI<6μm
粒子径が小さいほど、一般に末梢気道病変に有効、大きければ中枢気道で有効、と考えられており、これに基づいてICSの使い分けや併用が行われている。
また、ICSの主な副作用は嗄声や口腔内カンジダ、口渇などだが、ICSの粒子径が大きい程、咽頭・口腔内への貯留が多いため、副作用の頻度が高いと考えられる。
<ICSの妊婦の安全性に対するエビデンス>
BUD-DPIの安全性が報告されており(妊娠初期の投与で奇形発現や妊娠自体に影響しないとされ)、FDAで唯一カテゴリーB。
<その他>
ICSは原則として朝と夜の2回吸入するが、CIC-HFAについては、中等症持続型の喘息について1回/日の吸入でも可能であることが示されている。
カウンターの有無、アルコール臭の有無、etc

長時間作用性β2刺激薬(Long-acting β2-agonists: LABA)
 ・吸入:サルメテロール(:セレベント®)
 ・貼付:ツロブテロール(:ホクナリンテープ®)

LABA単剤の使用は不適切!必ずICSと併用する。

保険適応はCOPDだが、LABA吸入剤には、ホルモテロール(:オーキシス®)、インダカテロール(:オンブレス®)、ウメクリジニウム(:エンクラッセ®)もある。

吸入ステロイド/長時間作用型β2刺激薬配合剤
 ・フルチカゾン/サルメテロール (:アドエア®)
 ・フルチカゾン/ビランテロール (:レルベア®)
 ・ブデゾニド/ホルモテロール  (:シムビコート®)
 ・フルチカゾン/ホルモテロール (:フルティフォーム®)

配合薬によりアドヒアランス向上、LABA単独使用による弊害を避けられるメリットがある。サルメテロールの気管支拡張効果は遅いが、ホルモテロールにはSABAとほぼ同等の速効性があり、ブデゾニド/ホルモテロール(シムビコート)使用時は、SABAの代わりに追加吸入する使用方法が認められている(SMART療法)。
β2刺激薬はステロイド受容体の核内移行を促し、ステロイドはβ2受容体数を増加させるため、吸入ステロイドとβ2刺激薬は互いの作用を増強させると考えられている。

ロイコトリエン受容体拮抗薬(Leukotriene modifiers/ receptor antagonist: LTRA)
CysLT1受容体拮抗薬である。気管支拡張作用、気道炎症抑制作用を有する。
アレルギー性鼻炎合併喘息、運動誘発喘息、アスピリン喘息患者の長期管理には特に有用である。単剤での効果は、一般に低用量吸入ステロイド薬に劣る。
 ・プランルカスト:オノン®
 ・モンテルカスト:シングレア 、キプレス®
 ・ザフィルルカスト:アコレート®

テオフィリン徐放製剤 Theophilline (:テオドール®、テオロング®、ユニフィル®)
5~15μg/ml (高齢者では5〜10μg/ml)の血中濃度を目標とする。
(気管支拡張効果:10μg/ml以上、抗炎症効果:5μg/ml以上と言われる)

IgE抗体 Anti-IgE オマリズマブ(:ゾレア®)
ヒト化抗IgEモノクローナル抗体であり、IgEとマスト細胞及び好塩基球上の高親和性IgE受容体との結合を阻害し、抗炎症薬として作用する。
適応は通年性吸入抗原(ダニ、動物、真菌など)で感作され、血中IgE値が30-1500IU/mlの重症アトピー型喘息患者であり、患者体重と血中IgE値に応じて投与量を設定する。

IL-5抗体 Anti-IL-5 メポリズマブ(:ヌーカラ®)
ヒト化抗IL-5モノクローナル抗体であり、Th2細胞などから産生されるIL-5の生物活性を中和することで、抗炎症薬として作用する。
適応は既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者に限る。

・現在開発中の生物学的製剤
抗IL-13抗体(レプリキズマブ)、抗IL-4Ra抗体(デュピルマブ)

追加治療薬
 ・その他の抗アレルギー薬
 ・クロモグリク酸ナトリウム:インタール®   DSCG
 ・ヒスタミンH1拮抗薬 
  アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎を伴う喘息に有用性が期待できる。
  ・Th2サイトカイン阻害薬 
   スプラタスト:アイピーディー®

発作治療薬 Reliever Medications
・短時間作用型β2刺激薬(Rapid/ Short-acting inhaled β2-agonists: SABA)
  ・サルブタモール:ベネトリン®、サルタノール®、アイロミール®
  ・プロカテロール:メプチン®
   など。

・経口ステロイド薬
急性喘息発作(中等度以上の発作)には、経口ステロイド(プレドニゾロン0.5mg/kg)を短期投与(通常1週間以内)することで、重篤化を予防し、救急外来受診や入院回数を減らし、日常生活の制限を減少させる。
経口ステロイドの短期投与をしばしば必要とする例では、服薬アドヒアランスの確認や、吸入ステロイドの吸入方法の確認、他の薬剤併用の検討などが必要である。
・吸入抗コリン薬    (Anticholinergics)
吸入抗コリン薬は急性発作時にβ2刺激薬との相乗効果があり、追加吸入が考慮される。また、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)はCOPDの患者ではLABA以上の気管支拡張効果を示し、COPD合併の高齢喘息患者に有効である。
   短時間作用型 ・オキシトロピウム:テルシガン®
          ・イプラトロピウム:アトロベント®
   長時間作用型 ・チオトロピウム:スピリーバ®、スピリーバレスピマット®
          ・グリコピロニウム:シーブリ®
チオトロピウムのみ、気管支喘息の保険適応がある。
そのほかに、保険適応はCOPD に限られるが、LABA+LAMA製剤もあり

2)成人喘息長期管理薬の決定の仕方

喘息予防・管理ガイドライン(JGL)2015より、未治療であれば3-1,3-2の症状を目安に、治療中であれば表3-3を参考にして、4喘息治療ステップ」を選択する。2コントロール状態の評価」に基づきコントロール状態を判断し、コントロール良好を目指す。コントロール良好な状態が3〜6ヶ月持続していればステップダウンを考慮する。

治療ステップ1(長期管理薬0-1剤+発作治療薬):月1回未満の喘息症状の患者に限り、SABA屯用でも可(症状の過少申告が多いため要注意)。症状が月1回以上であれば低用量のICS単剤が基本であるが、吸入が不可能な場合などに、他の抗炎症作用を持つ薬剤、即ちLTRAかテオフィリン徐放製剤による単剤治療も認められる。副作用を避けるため、テオフィリン血中濃度はトラフ値5-15mg/mlを目標とする(抗炎症効果は~5mg/mlでも得られ、10〜mg/mlで気管支拡張効果が得られる)。病態に応じてその他の抗アレルギー薬(メディエーター遊離抑制薬、ヒスタミンH1拮抗薬、トロンボキサンA2阻害薬、Th2サイトカイン阻害薬)を用いてもよい。抗アレルギー薬の使用は以下のステップでも同様。

治療ステップ2(長期管理薬1-2剤+発作治療薬):低〜中用量ICSに加えて、LABAの併用が推奨される(別々に吸入するよりも配合剤を用いるほうが効果的)。LTRA、テオフィリンのいずれかを用いてもよい。LTRAはアレルギー性鼻炎合併例、運動誘発喘息、アスピリン喘息の長期管理に有用。

治療ステップ3(長期管理薬2-3剤+発作治療薬):中〜高用量のICSとLABAの併用が推奨される。効果が不十分であればLABA、LTRA、テオフィリン、LAMAいずれかの併用を行う。

治療ステップ4(長期管理薬(+追加治療薬)+発作治療薬):高容量のICSとLABAに加えて、LTRA、テオフィリン、LAMAの複数を併用する。これでもコントロールが悪い場合、アトピー性喘息で総IgE 50-1500IU/mlあれば、抗IgE抗体使用を考慮。

3)急性増悪(Exacerbations) (発作)への対応

まず症状を参考にして(表5)、喘息発作強度の初期評価を治療と同時並行で速やかに行う。患者の意識状態、姿勢、呼吸困難による会話・動作制限の程度、呼吸補助筋の使用の有無などから発作強度を判定する。明らかな重篤発作でなければ、治療前にパルスオキシメーターによるSpO2チェックと、可能ならピークフローの評価が推奨される。

□ アセスメント(外来、救急外来) まず、おおまかに
 呼吸困難感があるが、横になれる程度    →軽度症状
 苦しくて横になれず、かろうじて歩行可能  →中等度症状
 苦しくて横になれず、歩行不能、会話も困難 →高度症状
 チアノーゼ、意識障害、呼吸停止など    →重篤  
□ Vital sign  奇脈
□ 呼吸状態 呼吸回数、呼吸補助筋使用は?
 呼吸音減弱は重症化のサイン。変化にも注意。
□ 意識状態 会話可能か?
□ 体位 起座呼吸か?  
□ 動作制限の有無 歩行可能か? 食事とれていたか?
□ SpO2測定
 SpO2≧96%:小発作 91≦SpO2≦95%;中発作、SpO2≦90%:大発作、重篤
□ チアノーゼの有無

問診の要点(会話可能な場合) 迅速に要領よく。問診のため治療が遅れないように配慮。
□ 最近の喘息日記あればチェック
□ 今回の発作の誘因と持続時間は?(例:風邪をひいた、気候が不安定、ストレスなど)
 長期間低酸素血症が持続→入院
 感染合併→抗生剤、抗ウイルス薬など
□ 喘息に関する病歴 (救急外来受診、入院、呼吸不全や挿管の既往)
□ 今回の発作前後の治療内容
□ 以前、同様の発作時にどのような治療を受けて改善したか?
□ いつもの発作と比べて今回の程度は?
□ 合併疾患とその治療内容 
 (特に心肺疾患の合併や、テオフィリンとの相互作用がある薬剤等に注意)
□ アスピリン喘息や薬物アレルギーの有無

などを聴取する。

更に必要に応じて、以下の検査を実施する。
□ 動脈血ガス分析
□ 採血 (血算、白血球分画、生化学、CRP)
□ 胸部Xp撮影 (+単純胸部CT)
□ 喀痰塗抹/培養・細胞診(好酸球の有無)
□ 各種感染症check
 咽頭インフルエンザ抗原・尿中肺炎球菌抗原・尿中レジオネラ抗原etc

治療の実際
小発作
 短時間作用型β刺激薬(SABA)の反復吸入が第一選択。
 高用量単回使用より、少量を一定時間ごとに反復投与する方が有効とされる。
 最初の1時間は20分毎、以後1時間毎を目安に、改善するまで吸入する。

中等度症状および軽度症状持続
・酸素療法
・短時間作用型β刺激薬吸入
・ヒドロコルチゾンまたはメチルプレドニゾロン点滴静注
・アミノフィリン (250mg/vial) 6mg/kg+補液200-250ml 点滴静注
・ボスミン0.1〜0.3ml 皮下注
 
高度/大発作

①初期治療 

・酸素療法 PaO2 80mmHg前後を目標に酸素投与する。
・短時間作用型β刺激薬吸入
例>サルブタモール(ベネトリン®)吸入液(0.5%)、0.3~0.5ml(サルブタモールとして1.5〜2.5mg)を生理食塩水2mlと混合して、(超音波またはジェット)ネブライザーで投与。20-30分毎に繰り返す。
・アミノフィリン(ネオフィリン®) (250mg/vial) 6mg/kg+補液200-250ml 点滴静注
     発作前に十分にテオフィリン薬が投与されている場合には、半量以下に減量。
 *実際には、ネオフィリン1vial+ソルデム3A 200mlで投与することが多い。

・ヒドロコルチゾン(ハイドロコートン®)200-500mg +生食50ml
 または メチルプレドニゾロン(ソルメドロール®)40-125mg+生食50ml点滴静注
 10〜20mlの生食に溶いてone shotする場合もあるが、初回やアスピリン喘息の有無が不明な
 場合は約1時間前後を目安に点滴する。

・ボスミン(0.1%) 0.1〜0.3ml 皮下注 20-30分間隔で反復投与可能
   脈拍130/分以下にとどめる。
   (ただし虚血性心疾患、緑内障、甲状腺機能亢進では原則禁忌。)

②継続治療

ヒドロコルチゾン100〜200mg あるいはメチルプレドニゾロン40-80mgを
4〜6時間毎に点滴静注

・アミノフィリン点滴について
 JGL2015では推奨。国際的ガイドラインでは気管支拡張上乗せ効果が少なく、逆に不整脈など 有害事象が増加することを理由に、吸入抗コリン薬の併用が推奨。
・抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、吸入ステロイド薬などは急性発作には即時効果が
 認められない

4)重篤発作

高度の換気障害、心停止、呼吸停止 呼吸筋疲労
最大限の酸素投与でPaO2<50mmHg
PaCO2上昇 (5mmHg/時間の上昇、PaCO2≧45mmHg)
意識障害
→気管内挿管および人工呼吸管理をはじめとする救急医療の適応
(NPPVが有効な場合あるが、意識障害や気道分泌物が多い場合等には注意)
ICU医師と相談

6.特殊病型

1) アスピリン喘息
 成人喘息の約10%。アスピリンに限らずほとんど全ての酸性NSAIDsによって喘息が誘発される。COX-1阻害作用が過剰反応の引き金になると考えられている。食用黄色4号(タートラジン)、安息香酸ナトリウム、パラベン、サルファイト(亜硫酸塩)などの食品・医薬品添加物に対する過敏性をもつことがある。
多くは30~40歳代に発症する。慢性鼻炎、慢性副鼻腔炎、嗅覚低下、鼻茸を合併することが多い。一般に血清IgEは低値であるが、アトピー素因を合併する患者では高値を示すことがある。選択的COX2阻害薬のセレコキシブは安全に投与できるとされる。何らかの理由で長期にNSAIDsが必要とされる場合には、アスピリン脱感作を行うことがある。

ステロイド静脈注射による喘息の誘発
特にアスピリン喘息では40-60%の症例でコハク酸エステル型製剤(ソルコーテフ®、サクシゾン®、水溶性プレドニン®、ソル・メドロール®など)による発作誘発の可能性があるので、使用ステロイドはリン酸エステル型製剤(ハイドロコートン®、リンデロン®、デカドロン®など)を用いた方が良い。

2) 運動誘発喘息
 喘息患者の多くは、運動終了数分後から一過性の気管支収縮をきたし、60分以内に自然回復する。このように運動後に喘息発作や気管支収縮を生じることを、運動誘発喘息と呼ぶ。運動前に、予防に吸入β2刺激薬やDSCG、LTRAなどを用いる。

3) 難治性喘息に合併する病態
経口ステロイド薬の継続投与を必要とする難治性喘息の中には、アスピリン喘息Aspirin-induced Asthma (AIA)、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)、好酸球性肺炎、Churg-Strauss症候群や他の血管炎などの可能性があり、鑑別を要する。

付表
<表1>喘息と鑑別すべき他疾患(JGL2015より引用改変)

  1. 上気道疾患:咽頭炎、喉頭蓋炎、vocal cord dysfunction(VCD, 声帯機能不全)、副鼻腔炎(後鼻漏)
  2. 中枢気道疾患:気管内腫瘍、気道異物、気管軟化症、気管支結核
  3. 気管支〜肺胞領域の疾患:COPD
  4. 循環器疾患:うっ血性心不全、肺血栓塞栓症
  5. 薬剤:アンジオテンシン変換酵素阻害薬などの薬物による咳
  6. その他:自然気胸、過換気症候群、心因性咳嗽、逆流性食道炎

<表2>コントロール状態の評価 (JGL2015)

<表3-1>未治療の臨床所見による喘息重症度の分類(JGL2015)

<表3-2>未治療喘息の症状と目安となる治療ステップ(JGL2015)

<表3-3>現在の治療を考慮した喘息重症度の分類 (JGL2015)

<表4>喘息治療ステップ (JGL2015)

<表5>喘息症状・発作強度の分類(JGL2015)

平成 30年 5月

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