疾患解説
強直性脊椎炎(Ankylosing Spondylitis:AS)
1.疾患概念と疫学
強直性脊椎炎(AS)は、リウマトイド因子陰性脊椎関節炎の代表的な疾患で、炎症性腰痛、仙腸関節炎、付着部炎、脊椎炎をきたし、脊椎の強直をきたす疾患である。進行すると、脊椎の強い可動域制限に至る。AS患者の90%以上がHLA-B27陽性であり強い関連が示唆されている。男:女=3:1.発症は10〜35歳,45歳以上の発症はまれとされる。ASの有病率は日本 6/10万と、USA 197/10万,ノルウェー 210/10万と比較して稀であるが、これは、HLA-B27陽性率が日本 0.4%に対して、ヨーロッパ6-9%,スカンジナビア 10-16%と差があることに起因するとされる。そのほかの遺伝的背景については炎症性サイトカイン受容体であるIL-23R, 抗原プロセシングに関与するERAP1が報告されており、特にERAP1はHLA-B27陽性との関連があり、病態との関与が示唆されている(Brown MA, et al. Nat Rev Rheumatol. 2015. 12;81-91)。
2.症状
1)炎症性背部痛・腰痛 (Inflammatory back pain、IBP):安静や起床時に悪化し、運動により改善するとされる。
- ASAS 基準:1) 40歳以下の発症,2)潜行性発症,3)運動で改善,4)安静で改善なし,5)夜間の疼痛:以上5項目中4項目陽性で,3ヶ月以上続く疼痛はIBPに分類される.
- Berlin 基準:初期・早期のSpAの診断に有用とされる(感度70.3%,特異度81.2%)
炎症性背部痛のBerlin基準 (Arthritis Rheum 2006; 54: 569-78.)
50歳以下で,3カ月以上持続する背部痛があり,下記2項目以上が陽性でIBPと診断する.
- 朝のこわばり>30分
- 背部痛は体操によって改善されるが安静では改善されない
- 睡眠時間の後半のみに,背部痛のために起こされる
- 左右移動する殿部痛
2)仙腸関節炎
Newton test:腹臥位で仙腸関節部を上から押して、仙腸関節の圧痛を確認する。
Patrick’s test (FABER test):患側の膝を曲げながら股関節を外転・外旋させ、足を反対側の膝あたりに乗せる。仙腸関節痛が誘発されれば陽性。
Gaenslen test:仰臥位にして、健側下肢の股関節を屈曲(膝をかかえる)させる。患側は下肢を台上からおろして、股関節を伸展させたとき、伸展させている側に痛みが出れば陽性。
Pump handle test: 患側を上にして側臥位をとらせ骨盤(腸骨翼)を押して仙腸関節に痛みが生じるか確認する。
3)脊椎炎・可動域制限
- Schober’s test(前屈制限):A) 患者を直立させ,両側の上後腸骨棘を結ぶ線(dimples of Venusに近い)をマークする.B) 正中の上方10cmにもマークする.C) 最大限患者を前屈させ,距離を測定する.5cm以上伸長しない場合を陽性とする.
- 胸郭運動制限測定:
A) 患者の両手を頭につけさせ,第4肋間を測定する.
B) 最大呼気時と最大吸気時の胸囲を測定し,2.5cm以上拡大しない場合を陽性とする. - 胸郭運動制限陽性(<2.5cm)は比較的進行例でみられる.初期の患者では,後屈運動をすると(体を後ろに反らす),比較的早期から出る腰椎・胸椎の可動域制限がわかる.股関節,膝関節,頸椎の可動域は良好なため,背中は後ろへ反らないで直線的になるが,首の後屈と膝の屈曲がめだつ独特な姿勢になる.
3)末梢関節炎・付着部炎
- 付着部炎:SpAで最初に認められる異常は付着部炎であり,SpAの滑膜炎は付着部炎の炎症が二次的に波及したものと考えられている.
- 付着部炎の所見をとるために,可能な限り触診して圧痛を探すべきである.特にAchilles/足底腱膜炎は特徴的である。(対象部位:肩・胸鎖・胸肋関節,大転子・骨盤帯・恥骨結合,膝窩・内外側側副靭帯,棘突起,仙腸関節・坐骨結節,アキレス腱・足底腱膜)
- 指炎(dactylitis):腱鞘滑膜炎が主体と考えられている.(Lancet 1998;352:1137-40)
- 関節炎:下肢に多いとされる。関節数は少ないことが多く、大関節が好発部位だが、末梢の多関節炎もきたしうる。
4)眼症状:ぶどう膜炎をAS患者の約50%に認める。非肉芽腫性で,線維素性とも呼ばれ,前部に限局し,眼底に生じにくい(前部ぶどう膜炎).
5)その他:大動脈弁膜症、大動脈炎、間質性肺炎などを認めることがある。
3.検査
1) 採血:炎症反応(CRP, ESR)、抗体(RF, ACPA)
2) HLA-Bタイピング:HLA-B27は90%で陽性
3) 画像検査
X線検査:仙腸関節Xp,頚椎側面・腰椎側面Xp
- 椎体変形は,erosion → 椎体のsclerosing (shiny corner) → 椎体の方形化 (squaring) → 前縦靱帯の骨化,椎体骨棘形成 (syndesmophyte) → 竹様脊柱 (bamboo spine) の順で進行する.Bamboo spineになるまで15-40年を要する
X線所見についてのNew York Criteria (1966)
Grade 0:正常
Grade 1:疑わしい変化
Grade 2:軽度の変化:小さな限局性の侵食像や硬化像
Grade 3:中等度の変化:侵食像や硬化像の拡大,関節隙の幅の変化
Grade 4:著しい変化:完全強直
MRI検査
- 仙腸関節MRIは,X線変化が乏しい初期でも炎症性病変を同定できる,重要な検査である.ASASのSpA分類基準では,MRIによる仙腸関節炎の所見の項目が採用された.
- 仙腸関節MRIの所見の定義 (ASAS handbookが詳しい:Ann Rheum Dis 2009;68:ii1-ii44)
- Active inflammatory lesions(STIR/ Gd造影後T1で評価)
- 骨髄浮腫(Bone marrow oedema: BME)
関節周囲の骨髄が病変部位となる.Erosionなどの構造変化につながる. - 骨炎(Osteitis)
- 関節包炎(Capsulitis)
- 滑膜炎(Synovitis)
- 付着部炎(Enthesitis)
- Chronic inflammatory lesions(通常のT1で評価可能)
- 硬化(Sclerosis)
- 骨びらん(Erosions)
- 脂肪沈着・脂肪変性(Fat deposition/Fatty degeneration)
- 強直(Bone bridges/ Ankylosis)
- 撮像法について
- 脂肪抑制T2強調turbo spin-echo法もしくはSTIR(short tau inversion recovery)法は,少量の液体も評価でき,骨髄浮腫(BME)の評価に適している.
- Gadolinium造影後の脂肪抑制T1強調画像は,perfusion増加を同定するため,骨炎(Osteitis)の評価に適している.
- 脂肪変性や骨びらんなどのChronic changeを評価するにはT1強調turbo spin-echo法が適している.
エコー検査
付着部炎はSpAの特徴的な所見であり,関節エコー検査は,診察よりも感度の高い検査として付着部炎の評価に使用される.
4.診断
ASの診断にはmodified New York criteria(1984)が広く用いられてきたが、X線基準を満たす進行例でないとdefiniteにならず、早期例の診断が困難という問題点があった。そこで、近年では亜型を含めた脊椎関節炎(SpA)を拾い上げ、その後身体所見,合併症で再分類する方向でAS(Axial SpA)を診断する方向にある。脊椎関節炎(SpA)の分類基準としてはAmor criteria (1989), European Spondyloarthropathy Study Group(ESSG)(1991)などが提唱されてきた。最近では、Assessment of SpondyloArthritis international Society(ASAS)からMRI所見を取り入れた基準が、2009年に 体軸性SpA, 2011年に末梢性SpAについて提唱され、より早期例の拾い上げが可能となっている。
Modified New York Criteria (Arthritis Rheum 1984; 27: 361-8.) 臨床的に広く用いられている
1)臨床基準
a) 3 ヶ月以上続く腰痛とこわばり(安静で不変,運動で改善).
b) 腰椎の前屈(<5cm),側屈(<5cm)の運動制限
c) 胸郭の運動制限(第4肋間で<2.5cm)
2)仙腸関節X線基準:両側Grade 2 以上,あるいは一側のGrade 3以上で満たす
Grade 0:正常
Grade 1:疑わしい変化
Grade 2:軽度の変化:小さな限局性の侵食像や硬化像
Grade 3:中等度の変化:侵食像や硬化像の拡大,関節隙の幅の変化
Grade 4:著しい変化:完全強直
3)診断基準
a) Definite:1項目以上の臨床基準と,仙腸関節X 線基準を満たす
b) 疑い例: i) 臨床症状3項目満たす or ii) 臨床症状なし+仙腸関節X 線あり
ASASによる体軸性の脊椎関節炎(Axial SpA)分類基準 (ARD 2009;68:777–783.)
- 疾患活動性の評価は、評価指標:BASDAI(疾患活動性),BASMI(機能障害)/BASFI(脊椎と関節の可動性)を用いておこなう。ASDAIを用いる評価法もある。
◎ BASDAI (Bath Ankylosing Spondylitis Disease Activity Index):AS の活動性指標
- 5質問項目のVAS(0〜10点)の平均x10 (0〜100点)で評価する.
- 質問項目:1. 疲労,2. 首,背中,股関節の痛み,3. その他の部分の痛み・腫れ,4. 圧痛点の不快さ,5. 朝のこわばりの程度と 朝のこわばりの長さのVASの平均値
◎ BASFI (Bath Ankylosing Spondylitis Functional Index):機能障害の評価
- 過去1週間の日常生活動作を10項目質問し,VAS (0〜10点)を合算(0〜100点)
- 質問項目:1. 靴下やタイツを補助具なしで履く,2.腰を曲げ補助具なしに床の物を拾う,3.高い棚に手が届く,4.肘掛けの無い椅子から立ち上がる,5.臥位から立ち上がる,6.10 分間ささえなしで立っている,7.手すりを持たず12 15 段の階段を上る,8.体を回さず首だけ回して後方を見る,9.体を使う治療体操,庭仕事,スポーツなどをする,10.一日がかりの仕事や家事をこなす
◎ BASMI(Bath AS Metrology Index):脊椎・股関節の可動性と肢位の評価
- 5つの計測指標の点数を合算(0〜10点)
項目 |
0点 |
1点 |
2点 |
1. 耳-壁距離 |
<15cm |
15~30cm |
>30cm |
2. 腰椎前屈 |
>4cm |
2~4cm |
<2cm |
3. 腰椎側屈 |
>10cm |
5~10cm |
<5cm |
4. 頚椎回旋 |
>70° |
20~70° |
<20 ° |
5. 果間距離 |
>100cm |
70~100cm |
<70cm |
◎ ASDAI-CRP: 0.12 x Back Pain + 0.06 x Duration of Morning Stiffness + 0.11 x Patient Global + 0.07 x Peripheral Pain/Swelling + 0.58 x Ln(CRP+1)
ASDAI-ESR: 0.08 x Back Pain + 0.07 x Duration of Morning Stiffness + 0.11 x Patient Global + 0.09 x Peripheral Pain/Swelling + 0.29 x √(ESR)
活動性なし< 1.3, 低疾患活動性 1.3〜2.1, 中疾患活動性 2.1〜3.5, 高疾患活動性 3.5<改善については、Δ1.1以上で、clinically important improvement、Δ2.0以上でmajor improvementと定義されている。(Machado P, et al. Ann Rheum Dis. 2011. 70:47-53)
5.治療
2016年にASAS-EULARより最新版の体軸性SpAに関するマネジメントの推奨が出され、bDMARDの開始・継続基準、治療アルゴリズムが提示された(van der Heijde D, et al. Ann Rheum Dis. 2017)。関節リウマチと同様、ASDAI, BASDAIなどによる定期的なモニターを”target”とした、治療方針決定が提唱されている。MRIによる画像評価なども考慮される。また、低疾患活動性を維持した場合の、bDMARDの減量についても記載がある。
AS治療の基本は、運動療法と消炎鎮痛薬である。近年、活動性の高いAS症例に対して、TNF阻害薬が用いられるようになった。末梢性関節炎に対しては、一部DMARD (SASPなど)が使用される。
1)リハビリテーション
- 継続的な運動は病状を改善させる (Cochrane Database Syst Rev 2008 ; 1 : CD002822)
- 自宅でのエクセサイズは有効.指導者がついたエクセサイズ(地上もしくは水中)を個人もしくはグループで行うことは自宅での運動より有効なのでより推奨される.(ASAS 2010年Recommendation)
- 長時間同じ姿勢をとらないこと,前屈みにならないこと,急な動きを避けること,体をあまり冷やさないようにすることなど,姿勢や動きに気をつけるよう指導する.
- 喫煙者の治療反応性は乏しいため,禁煙を指導する.(Rheumatology (Oxford). 2016;55:659-68.)
2)NSAID
インドメタシンなどが用いられていたが、近年はCOX2阻害薬が推奨されている。
3)TNF阻害薬
生物学的製剤の開始基準としては、以下の項目に要約される。生物学的製剤の第一選択としてはTNF阻害薬が考慮される。
- リウマチ科医による体軸性SpAの診断
- CRP上昇 and/or 画像(MRI, Xp)上の仙腸関節炎所見
- 既存療法の無効:少なくとも2種類のNSAIDsを4週間以上
(末梢性関節炎についてはステロイド局所投与、スルファサラジン無効例) - 高疾患活動性 ASDAI≧2.1 or BASDAI ≧4
- リウマチ科医の適応に関する意見
本邦ではInfliximabとAdalimumabのみ保険適応がある(2018年6月現在)。Etanercept, Golimumab、CertolizumabについてもRCTで疾患活動性指標,脊椎可動性に関する有効性が確認されている。1剤目で無効であった場合でもTNF阻害薬間のスイッチは考慮される。
◎ Infliximab
- ASSERT試験(多施設RCT) (Ann Rheum Dis 2006; 54: 1646):24週後に疾患活動性指標が有意に改善し,MRI所見も定量化したところ有意に改善した.脊椎Xp所見は有意な改善を認めなかった.
- 5年成績の報告(Ann Rheum Dis 2008; 67: 340):部分寛解34%.non responderの特徴:BASDAI>4,罹病期間が長い,治療開始時の機能障害が高度(BASFIが高い)
◎ Adalimumab
- ATLAS試験(多施設RCT) (Arthritis Rheum 2006; 54: 2136-46):12週後のASAS20%改善率がADA 58.2%, プラセボ20.6%.24週後もASAS40%改善率有意差あり.
- 末梢関節炎への有効性を示した試験(Arthritis Res Ther 2010;12:R117)
4) IL-17阻害薬
TNF阻害薬無効時にIl-17阻害薬への変更が考慮される。Secukinumab、Ixekizumabの保険適応がある。
- MEASURA1, MEASURE2試験 (N Eng J Med. 2015;373:2534) 16週後に疾患活動性指標(ASAS20)が有意に改善し,特にloadingありのSecukinumab 150mg s.c.群が最も有効であった。
- COAST-V試験 (van der Heijde D, et al. Lancet. 2018;392:2441-2451) 16週後に疾患活動性指標(ASAS40)はPCBと比較して、Ixekizumab群で有意に改善した(48.1% vs 18.4%).
5) そのほかの生物学的製剤・分子標的薬
Ustekinumab(IL12/23阻害薬)、Tofacitinib (JAK阻害薬)の有効性に関する質の高い報告がある。
ASAS-EULARによるaxial SpA(axSpA)のマネジメントに関する推奨(抄)
(本文、図表ともにvan der Heijde D, et al. Ann Rheum Dis. 2017より一部改変)
- axSpA患者は、現在の徴候(体軸性、末梢性、関節外病変)、および合併症や心理状態を含む患者の特徴を勘案して個々の方針により治療すべきである。(D)
- axSpA患者の疾患モニタリングには、患者報告の結果、臨床的所見、採血検査結果、画像を含めるべきである。モニタリングの頻度は徴候、重症度、治療内容に基づき、個別に判断されるべきである。(D)
- 予め定義された治療標的に対して治療を方向付けるべきである(訳注:”treat to target”)。(D)
- axSpAについて患者教育を行い、定期的な運動(B)、禁煙(D)が推奨される。理学療法も考慮すべきである。(A)
- 疼痛やこわばりを主訴とする患者に対しては第一選択としてNSAIDを、リスク・ベネフィットを考慮しつつ最大投与量まで使用すべきである。NSAIDへの反応が良好な患者については、症状がある場合にはNSAIDの定期的な使用が好ましい。(A)
- オピオイドのような鎮痛薬については前述の推奨治療にもかかわらず疼痛が残る場合や、これらの治療が禁忌、継続不能な場合に考慮してもよいかもしれない。(D)
- 副腎皮質ステロイドの筋骨格系の炎症部位に対する局所注射は考慮してもよい(B)。axSpA患者への長期の全身性ステロイド投与は避けるべきである。(D)
- 体軸性関節炎のみがみられるaxSpA患者に対しては、csDMARDは通常投与すべきでない。末梢性関節炎に対しては、スルファサラジンの使用は考慮される。(A)
- 従来療法にもかかわらず疾患活動性の高い患者に対しては、bDMARDの使用を考慮すべきである。現在の実地臨床ではTNF阻害薬を開始する。(A)
- TNF阻害薬に反応しない場合には、他のTNF阻害薬への変更(A)またはIL17阻害薬への変更(B)を考慮すべきである。
- 持続的な寛解症例については、bDMARDの減量を考慮すべきである。(B)
- 全股関節置換術は、年齢にかかわらず、難治性の疼痛、機能障害、画像的な破壊のある患者に考慮すべきである。専門施設における脊椎矯正骨きり術は、重度の機能障害を伴う変形を持つ患者に対して考慮されるべきである。©
- 病気の経過中に優位な変化が生じた場合には、炎症以外の原因(例えば脊椎骨折)を考慮し、画像検査を含めて適切に評価すべきである。(D)
2021年