疾患解説
IgG4関連疾患(IgG4-related disease:IgG4-RD)
1.疾患概念と疫学
IgG4関連疾患は、従来自己免疫性膵炎、Mikulicz病、硬化性胆管炎等として知られていた疾患の病態研究において、自己免疫性膵炎に硬化性唾液腺炎を含む多くの腺外病変の合併が知られており、またMikulicz病においても膵炎の合併を認めることが報告されていた。これらの疾患において、IgG4産生形質細胞の浸潤、花筵状線維化等の特徴的な病理組織像を呈することがわかり、これらの病態を統一する疾患概念として、IgG4関連疾患(IgG4-related disease, IgG4-RD)が提唱された。現在ではこの視点に立ち、膠原病科・消化器内科・腎臓内科・病理等の各研究グループの協力体制のもと、病態解明の研究が進められている。
疫学的には、一般的に中高年男性に多い疾患である。特に、(1型)自己免疫性膵炎、後腹膜線維症、尿細管間質性腎炎などの表現型をとるものは中高年男性に多いとされている。一部の臓器病変では性別の分布が異なり、唾液腺炎、涙腺腫脹などは比較的男女差が少ない。また、疾患の重症度(多臓器病変の存在、血清IgG4高値など)には、男女差がないとされている。
(Medicine 2015;94:1より抜粋)
2. 臨床症状
1) 全身症状:
発熱は一般的に認めない。全身倦怠感は10%でみられそれが唯一の症状であることもある。
2) 臓器障害・リンパ節腫大
60-90%の症例で、複数臓器に病変が及ぶ。罹患臓器は、次の表にあるように多彩であり、罹患臓器における亜急性の腫瘤性病変の増大、もしくは、びまん性腫脹による症状が出現する。(例)眼窩内偽腫瘍、唾液腺腫大、膵のびまん性腫大、硬化性胆管炎による黄疸、後腹膜線維症による水腎症など。
リンパ節腫脹は比較的多い。
臓器病変の分布について
(John H. Stone. Seminars in Diagnostic Pathology 2012;29:177より抜粋)
3. 検査
1) 採血検査
- 血清IgG4高値(診断基準のカットオフ値は、IgG4> 135mg/dl)、IgG高値、IgE高値を認める。
- 補体低下(CH50, C3, C4)、免疫複合体上昇をしばしば認める。
- 抗核抗体、RFは通常陰性だが、抗核抗体が陽性となる例もある。
- CRP上昇は通常みられないが、大動脈炎を伴う場合、障害臓器の多い全身性の場合などではCRPが上昇することもあるとされている。
- sIL2R上昇を認めることもある。
2) 画像検査
障害臓器により、必要な画像検査を行う。造影CT、PET-CTは全身の臓器障害のスクリーニングに有用である。下垂体病変や硬膜病変、眼窩内腫瘤の精査には頭部MRIを、膵臓病変の精査にはMRCP, EUS, ERCP等を行う。
自己免疫性膵炎画像 |
PET画像 |
3) 病理検査
画像検査で検出された臓器の生検を行い、鑑別診断を進める。顎下腺、耳下腺、涙腺、リンパ節等、採取しやすい部位の臓器より生検を行うことが多いが、鑑別診断のために必要であれば腎臓、膵臓、肝臓、前立腺などの実質臓器からの生検も考慮すべきである。
・病理像のMajor points
- IgG4産生形質細胞浸潤
- 花筵状線維化(storiform fibrosis):炎症細胞浸潤と小型の紡錘形細胞からなり、花筵状の錯綜配列を示す病変。
- 閉塞性静脈炎(obliterative phlebitis):形質細胞浸潤と線維化病変が静脈内に進展し、細静脈が炎症性に閉塞する所見。
- 好酸球の浸潤:mild〜moderate
・病理像のMinor points
- 胚中心形成
- リンパ濾胞
- 非閉塞性静脈炎
- 閉塞性動脈炎(主に肺)
IgG4関連硬化性胆管炎における花筵状線維化 |
1型自己免疫性膵炎における閉塞性静脈炎 |
4.診断
IgG4関連疾患包括診断基準(2011年に世界で初めて作成された診断基準)に従い診断する。
項目1. | 臨床的に単一または複数臓器に特徴的なびまん性あるいは限局性腫大、腫瘤、結節、肥厚性病変 |
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項目2. | 血清学的に高IgG4血症(135 mg/dl以上) |
項目3. | 病理学的に以下のふたつを満たす ① 著明なリンパ球・形質細胞の浸潤と線維化 ② IgG4陽性形質細胞浸潤:IgG4/IgG陽性細胞比40%以上、かつIgG4陽性形質細胞 が10/HPFをこえる 1+2+3を満たすもの:確定診断群(definite) 1+3を満たすもの:準確診群(probable) 1+2のみを満たすもの:疑診群(possible) |
できる限り組織診断を加えて、各臓器の悪性腫瘍(癌、悪性リンパ腫など)や類似疾患(Sjӧgren症候群、原発性硬化性胆管炎、Castleman病、二次性後腹膜線維症、肉芽腫性多発血管炎性肉芽腫症、サルコイドーシス、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症など)と鑑別することが重要である。 本基準により確診できない場合にも、各臓器の診断基準によっても診断が可能である。また、包括診断基準で準確診、疑診の場合には、臓器特異的IgG4関連疾患診断基準を併用する。 |
IgG4-RDにおける臓器病変ごとの診断基準も提唱されている。自己免疫性膵炎、IgG4関連腎臓病について、診断基準を次表に提示する。この他、IgG4関連硬化性胆管炎臨床診断基準2012(日本胆道学会・厚生労働省難治性の肝胆道疾患に関する調査研究班2012)、IgG4関連ミクリッツ病診断基準(J Rheumatol. 2010; 37:1380)、IgG4関連眼疾患診断基準(日臨免誌 2009;32:478)などが存在する。
(日本膵臓学会・厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班2011)
(Clin Exp Nephrol. 2011;15:615より)
鑑別診断について
IgG4-RDの診断については、慎重な鑑別診断を要する。他疾患がIgG4-RDの診断基準を満たすことがあり、病理や臨床像での除外診断が重要である(kamisawa T, et al. Lancet. 2015;385:1460)。
・血清IgG4が高値という点では、Castleman病、気管支喘息、ANCA関連血管炎(特に好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA))、その他の膠原病(Sjӧgren症候群、関節リウマチ、強皮症等)、IgG4が上昇し得る疾患は多い。血清IgG4を135-144 mg/dLでカットオフとした場合の感度87%, 特異度83%とされている(Hao M,et al. Medicine. 2016;95:e3785)。
・IgG4-RDは一般的には炎症反応陰性で発熱を伴わないとされており、CRP高値や高度の炎症反応(発熱含め)を呈する場合、悪性リンパ腫やCastleman病等のmimickerである可能性を含めて診断を見直す必要がある。
・IgG4-RDは臓器の腫大・結節・肥厚をきたすため、常に各臓器につき悪性腫瘍との鑑別を要する。IgG4-RDの悪性腫瘍罹患率は一般人口の3.5倍(Mod Rheumatol. 2012;22:414)とする報告がある。両者の混在する症例も存在し、自己免疫性膵炎の経過中に膵癌を発症した報告や、IgG4関連唾液腺炎の経過中に悪性リンパ腫を発症した報告がある。
5.治療
ステロイド反応性が極めて良好な疾患であるが、少なからず再燃する。良性疾患であるが、線維化が進むことで不可逆的な臓器の機能障害を生じうる可能性があり、治療開始の判断についてはこの点を考慮する必要がある。
- プレドニゾロン初期量2~4週間 0.6 mg/kg/dayで開始し、5 mg/dayまで3~6か月かけて減量を行う。いわゆる、” Mikulicz病”の場合には、ステロイド中止も可能であるが、維持量のステロイドが必要なことも多い。またステロイド初期量が0.4mg/kg/day以下、ステロイド減量速度が速いことが、再燃リスクとの報告がある(Shirakashi M, et al. Sci Rep. 2018;8:10262)。
- 中枢神経病変、大血管炎、粗大な後腹膜線維症など、重要臓器病変の場合は、1mg/kgの高用量を使用する場合もある。
- 再燃時においても、通常はステロイドのみで再寛解に持ち込むことが出来る。
- 再燃ないし治療抵抗性であった場合に、エビデンスは存在しないものの、アザチオプリン等の免疫抑制剤を併用する。リツキシマブ有効例の報告があり、IgG4低下と長期の寛解維持が期待できる(Khosroshahi A, et al. Arthritis Rheum. 2010;62:1755)。
6.トピックス
・IgG4-RDの臨床病型分類 (Wallace ZS, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:406-412.)
Wallaceらは、IgG4-RDを臨床病型に応じてIgG4-RDの表現型分類を行っている。
Group 1 (31%): Pancreato-Hepato-Biliary diseases
Group 2 (24%): Retroperitoneal Fibrosis and/or Aortitis
Group 3 (24%): Head and Neck-Limited disease
Group 4 (22%): classic Mikulicz syndrome with systemic involvement
Group 3でより女性が多く、アジア人が多い。Group 4は血清IgG4がより高値であった。
・IgG4-RDの病態研究
IgG4-RDの病態には不明な点が多いが、濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh)の関与が示唆されている。IgG4-RD患者末梢血において、Tfh細胞は増加しており、組織ちゅにもTfH細胞の浸潤が観察された(Kubo S, et al. Rheumatology. 2018;57:514-524)。Tfh細胞のうち、Tfh2細胞が増加しており、Tfh2細胞は、B細胞をIgG4産生形質芽細胞に分化誘導することが報告されている(Akiyama M, et al. Arthritis Res Ther.2016;18:167 )。
また、最近、AIP患者の51%においてLaminin 511に対するIgG1 classの自己抗体が出現していることが報告された(Shiokawa M, et al. Sci Trans Med. 2018;10(453))。マウスにヒトLaminin 511を免疫することで、AIP様の病態が再現された。Laminin 511抗体陽性患者では悪性腫瘍、アレルギーの合併が少ないと報告されている。