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疾患解説

巨細胞性動脈炎(Giant cell arteritis ; GCA) / 側頭動脈炎(temporal arteritis ; TA)

1.疾患概念と疫学

巨細胞性動脈炎は大型から中型の血管を侵す肉芽腫性血管炎で、大動脈や頸動脈とその分枝にみられる。浅側頭動脈、椎骨動脈、眼動脈の罹患率が高い。内頸動脈の分枝(眼動脈とその枝)の閉塞を招くと失明しうる。男女比1 : 1.7, 好発年齢は50歳以上である。北欧諸国に多く、わが国では稀な疾患である。我が国の厚生労働省研究班の全国疫学調査(1997年)では、患者数690人、人口10万対0.65人と推計されたが、近年発症率は増加傾向とされる。約30%にリウマチ性多発筋痛症( Polymyalgia Rheumatica ; PMR )を合併し、逆にPMRの約10%に巨細胞性動脈炎を合併する。欧米では巨細胞性動脈炎の40〜60%にPMRの合併がみられる。

組織学的には巨細胞の出現を伴う動脈炎で、動脈の全層に浸潤するT細胞とマクロファージ主体の単核球浸潤が特徴である。内弾性板を中心とする肉芽腫性炎症と著しい内膜肥厚、中膜の萎縮がみられ、動脈硬化性病変を伴うこともある。肉芽腫性病変では、内弾性板の断裂と通常その内膜側に多核巨細胞がみられる。炎症が鎮静化すると必ずしも多核巨細胞は認められなくなる。これらの病変は分節状に分布し、skip-lesionと呼ばれる。血管病変部には免疫グロブリン、補体の沈着が認められる。遺伝因子としてHLA-DRB1との関連が報告されている。

2.臨床症状

血流障害による血管機能不全と全身炎症を認める。本邦における初発症状は頭部の疼痛(71 %)、発熱などの全身症状(41 %)、視力障害(31 %)が多い。また、筋肉痛(19.7 %)、関節痛(13.1 %)も認められる。症状の中で比較的本症に特異性が高いのは、複視と顎跛行である(jaw claudication:短時間の咀嚼後のみに、顎関節近傍の下顎近位部の痛みが生じ、咀嚼・会話などを間欠的に中止すること。外上顎動脈の虚血による。一方、顎関節症では咀嚼直後に痛みが始まる。( Smetana, G. W. & Shmerling, R. H. JAMA. 2002.  287; 92-101)

  1. 頭痛
    強い頭痛が後頭部から側頭部にかけてみられるが、部位が漠然とし、明確でないこともある。頭皮の疼痛あるいは圧痛として表現されることもある。頭痛は拍動性で、片側性のことが多く、夜間に悪化しやすい。有痛性または肥厚性の側頭動脈を触れる場合や、拍動異常(減少や消失)を認める場合がある。
  2. 眼症状
    眼症状としては、無痛性・突発性の視力障害、色覚低下および特異的な水平性視野欠損などを認める前部虚血性視神経症(視神経乳頭浮腫を伴う)、球後虚血性視神経症、複視などがみられる。視神経や視神経乳頭の虚血は、眼動脈の分枝である後毛様体動脈、網膜中心動脈の閉塞により生じる。視力障害は40 %以上に認められ、初期には増悪・寛解を繰り返すが、一度症状が固定してしまうと非可逆性となる。発症早期より一方に一過性の黒内障が姿勢変化により出現することがある。約10 〜20 %に失明をみる。
  3. 全身症状・血管病変について
    発熱、体重減少、倦怠感、頸部および肩甲部の疼痛と硬直などのPMR症状がみられる。大動脈の障害により、鎖骨下動脈盗血症候群(subclavian steal syndrome)、解離性大動脈瘤などをみることがある。解離性大動脈瘤は他の症状が落ち着いた後期にみられ、破裂が死因になる。虚血性疾患(脳梗塞・心筋梗塞)もみられる。腹部血管狭窄、腎不全、腎血管性高血圧、足跛行はほとんどみられない。
    大動脈主体のGCAは側頭動脈が侵されるものと比較して、発症年齢が若い(66歳vs 72歳)、頭痛が少ない(14 % vs 57 %)、初発時 に上腕跛行が多い(51 % vs 0 %)が多いという報告がある。(Brack A.,et al. Arthritis Rheum. 1999. 42, 311-317).

3.検査

  1. 血液検査所見
    特異的な血液検査所見ものはなく、血沈亢進・CRP陽性は70 %以上、白血球増多・貧血は20〜30 %にみられる。25%に血小板増加、ALP上昇、アルブミン低下もみられる。25〜35 %に肝酵素(AST, ALT)軽度上昇がみられることがある。活動性評価にはCRP, 血沈を用いる。血清IL-6が活動性評価に有用であるという報告もある。
  2. 画像検査
    高齢者に多いことから、動脈硬化病変との鑑別が必要である。一般に血管炎では全周性、動脈硬化は偏った壁肥厚を認めるが例外もある。
    ・造影CT: 動脈壁の全周性の肥厚、狭窄、閉塞など。大動脈瘤。
    ・ドップラーエコー:側頭動脈のハロー所見は動脈壁の炎症と浮腫を反映する。このハロー所見は、米国でのメタ解析の報告で、1990年のACR分類基準と比較し感度69 %, 特異度82 %であった(Mahr, A. et al. T. Ann Rheum Dis. 2006. 65; 826-828)。
    ・MRI / MRA:側頭動脈および大動脈・その分枝の動脈炎や動脈炎の広がりを非侵襲的に評価するのに有用であるが、単独で活動性や治療効果判定には用いない。
    18F-FDG PET:大動脈病変主体のGCAの診断に有用である。
    ・血管造影:内腔がsmoothな狭窄や閉塞がみられうる。での
  3. 側頭動脈生検
    EULAR recommendationではGCAが疑われる場合は出来るだけ施行するようにと推奨されている(Mukhtyar, C. et al.. Ann Rheum Dis. 2009. 68;318-323)。病変は分節状に分布する傾向があるため2cm以上必要が望ましいとされる。必ずしも巨細胞が認められるとは限らない。側頭動脈は生検により途絶しても障害をきたさない。両側同時に生検せず片側で良い。ステロイド開始前が望ましいが、ステロイド開始後14-28日でも陽性所見を得たという報告があるので、視力障害などがあれば治療を優先し、2週間以内に生検を行うとよい。

4.診断

1990年のアメリカリウマチ学会(American College of Rheumatology; ACR) による診断基準が一般的で広く用いられている(Hunder, G. G. et al. Arthritis Rheum. 1990. 33; 1122-1128).
。感度93.5 %, 特異度 91.2 %であるといわれているが、これは血管炎患者にこの分類基準を適用した場合の数値であり、実地臨床においては、一般高齢者でもこの分類基準をしばしば満たしうることに留意しなければならない。

側頭動脈炎の診断基準 1990年アメリカリウマチ学会による

巨細胞性動脈炎の診断に役立つ臨床的特徴について
側頭動脈生検で陽性結果が得られる見込みを予測する上で、個々の臨床的特徴の意義を決定するために、感度(GCA / TAの患者のうち、特定の症状や徴候を有している割合)・特異度(GCA / TAの患者のうち、特定の症状や徴候を有している割合)のみならず、尤度比 (LR : likelihood ratio)に着目した解析が行われた ( Smetana, G. W. & Shmerling, R. H. JAMA. 2002. 287; 92-101)。LRとは、病歴や身体診察の特定の所見が標的疾患をもつ患者で得られる可能性と、標的疾患のない患者のそれとを対比したオッズを表している。したがって、ある特定のLRが1.0を上回っている場合、疾患の可能性は高まり、LRが1.0を下回っている場合、疾患の可能性は低くなる。GCAの診断に対する症状の正確性に関しては、2つの症状が臨床上参考になる強力なLRを有していた。顎跛行は感度34 %であるものの陽性尤度比(LR+)が最も高く(4.2)、次に複視が予測価値の高い症状であった(LR+ 3.4, 感度9 %)。その他の症状はいずれもLR+ が2を超えなかった。診断に対する身体診察の正確性に関しては、滑膜炎の存在(LR+ 0.41)、側頭動脈に何ら異常のないこと(LR+ 0.53)は側頭動脈生検陽性の検査結果を有意に考えにくくした。一方で側頭動脈の数珠状変化、突出、あるいは拡張はすべてLR+が4を超えていた。また、年齢 > 50歳という基準の感度は99%以上であり、50歳未満の患者では、複数の特性あるいは可能性をかなり高める特徴がみられる場合のみ、GCAの診断を考慮すべきである。2020年のsystematic reviewでは、GCAの診断に関するLRは、腕の虚血(6.0)、顎跛行(4.9), 側頭動脈肥厚(4.7)などが有意に高いとの結果であった (van der Geest KSM, et al. JAMA Intern Med. 2020;180:1295-1304).

5.治療

EULAR recommendation 2018(Hellmich B, et al. Ann Rheum Dis. 2020;79:19-30)を参照

  1. ステロイド:標準的なステロイド使用量はプレドニゾロン(PSL)換算で1mg/kgである。失明の可能性がある場合や中枢神経症状、脳神経症状のある場合はステロイドパルスも検討する。視力障害は非可逆性で、一方の視力障害が起きると1〜2週でもう一方の眼も侵されるとされるので、視力障害がある場合、側頭動脈生検による組織学的診断を待たず、早急に治療を開始する。発症時にステロイド大量点滴を行った群は、非点滴群に比べ、経過中のステロイド投与総量が有意に少ないとの報告がある。
  2. 免疫抑制薬:3つの比較対照試験のメタ解析から、メトトレキサート 10〜15 mg / 週の間欠投与は効果があると考えられている。
  3. 生物学的製剤:近年、抗IL-6受容体抗体(トシリズマブ)のRCTに於ける有効性が報告されており、治療として選択されることが増えている。海外第Ⅲ相試験(GiACTA試験)( Stone, J. H. et al. N Engl J Med. 2017. 377;317-328)の結果を受け、2017年にトシリズマブの皮下注製剤が巨細胞性動脈炎に対して保険収載された。
    TNF阻害剤(インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ)はそれぞれRCTで有効性が否定されている。CTLA4-Ig(アバタセプト)もRCTで有効と報告されている。
  4. 抗血小板薬:少量アスピリンは脳梗塞などの合併症の予防に有効として全例に推奨されている。

GiACTA試験を踏まえ、2021年にACRからGCAのマネジメントガイドラインが出された(Maz M, et al. Arthritis Rheumatol. 2021;73:1349-1365)。初期治療からの高容量ステロイド(眼症状、脳虚血がある場合はパルスを追加)+トシリズマブ併用での治療開始が推奨された。また寛解後のステロイド減量中止が推奨されているが、その期間は明示されていない。

Maz M, et al. Arthritis Rheumatol. 2021;73:1349-1365より引用

2021年

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