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東大病院アレルギーリウマチ内科におけるSLE診療

全身性エリテマトーデス(以下、SLE)は、若い女性に発症しやすい病気です。免疫の異常が関与するといわれており、ステロイドなどの免疫抑制療法により短〜中期的な生命予後には大きな改善がみられるようになりました。一方で、妊娠・出産を含めたライフステージへの影響は大きく、また加齢に伴い動脈硬化や骨粗しょう症などの問題も生じてくることが問題となっています。

東大病院アレルギーリウマチ内科では、SLE患者さんに対するよりよい治療をめざすとともに、一人一人のライフステージに寄り添う総合的診療を心がけています。また、当科の藤尾、土田は、厚生労働省大須賀班「医学的適応による生殖機能維持の支援と普及に向けた総合的研究」に参加し、より充実した支援のための研究活動を行っています。

当科では、一般初診外来にてSLE患者さんの初診を受け付けています。また、妊娠・出産を希望されるSLE患者さんをサポートする周産期外来(仮称)を新たに開設いたします。受診希望の方は、東大病院予約センター(03-5800-8630)(平日10時〜17時)でご予約のうえ、受診をお願いいたします。予約方法の詳細につきましては、当科外来案内もご覧ください。

1. 寛解をめざした治療

SLEの治療目標

エンドキサンをはじめとする免疫抑制薬によりSLE患者さんの短期〜中期的な生命予後は大きく改善しています。1970年代までは6割前後だった10年生存率も、2010年代には90%以上となり、SLEは“治る病気”となりました。一方で、SLEに伴う臓器障害については、発症より期間が経つにつれて累積していき、発症5年の段階で50%のSLE患者さんに少なくとも1つの障害が出るという研究結果もあります。また、このような臓器障害は、SLEそのものによる影響のほかにも、ステロイドに代表される薬剤関連有害事象によっても生じることがわかっています。臓器障害が増えることにより、生活の質の低下、社会生活・活動への悪影響、生命予後への影響など、様々な悪影響が生じるとされています。以上より、当科ではSLE患者さんの治療目標は、長期的な視点での臓器障害の進行を食い止めつつ、よりよい生活を営みながら、長期的にも生命予後を改善することを目標と考えています。

寛解の達成が重要

SLE患者さんの臓器障害に関与する要因としては、SLEそのものの活動性、再燃も関連しますが、高血圧やステロイド使用量などが強く関係しているといった研究結果が出ています。そこで、SLE患者さんの治療目標として、“寛解”をめざすといった考えが出てきました。現在受け入れられている“寛解”の考え方としては、SLEの病勢が完全に抑えられており、最小限の治療で維持されている状態とされています。ステロイドについては、完全に中止が望ましいですが、プレドニン換算で5mg/日以下までは、“治療あり(on therapy)の寛解”とされています。また、より現実的な目標として、Lupus low disease activity score (LLDAS)という指標も提案されており、こちらはSLEによる重要臓器障害のない状態で、プレドニン換算で7.5mg/日以下というやや緩めの基準になっています。寛解、LLDASが達成されている患者さんでは、SLEによる臓器障害の進行が抑制されるだけでなく、骨粗しょう症や心筋梗塞などのリスクを下げることが報告されており、当科ではすべてのSLE患者さんについて、寛解を達成することを治療目標としています。

長期予後の改善に向けて

SLE患者さんの主な死因としては、疾患発症より10年以上経過すると、SLEそのものによる死亡は少なくなり、むしろ感染症や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患が主となることが知られています。当科では感染症や動脈硬化性疾患の進行に関連するステロイドの使用について可能な限り減量を試み、前述の寛解を目標に診療を行っています。ステロイドをむやみに減量することは難しいですが、以下に紹介するような新規治療薬剤を併用することで、ステロイド減量を試みることが可能となっています。

2. 新しいSLE治療薬の活用

プラケニル

欧米では古くからSLEの標準的な治療薬として使用されてきましたが、日本で行われた試験で特に皮膚病変や筋・関節症状に有効であることが示され、2015年から日本でも使用できるようになりました。長期間内服することによって、生命予後の改善や臓器ダメージの抑制、SLEの再燃予防、ステロイド薬の減量効果、血栓予防なども期待されており、最近徐々に使用が増えてきています。特別に副作用の多い薬剤というわけではありませんが、注意すべき副作用として目の網膜症の可能性がありますので、少なくとも年1回の定期的な眼科検査が必要です。

セルセプト

SLEの中でも予後を左右する重要な臓器障害として腎臓の障害があり、ループス腎炎といいます。障害の程度が強いループス腎炎には、ステロイド薬と免疫抑制薬を組み合わせた強力な免疫抑制治療を行う必要があります。経口免疫抑制薬のセルセプトは、以前から有効性が示されていた免疫抑制薬(エンドキサン)と同等の有効性が確認され、日本でも2015年からループス腎炎の標準治療のひとつとなりました。セルセプトには、エンドキサンの副作用にある無月経や不妊のリスクはあまりないのですが、胎児の奇形を引き起こすリスクがありますので、病状が落ち着いた時期の計画的妊娠を考える際には事前に中止する必要があります。

ベンリスタ

SLEは異常な免疫反応によって様々な臓器に炎症が起こしますが、異常な免疫反応に関わる細胞のひとつにB細胞があります。生物学的製剤という注射薬であるベンリスタは、B細胞をコントロールして病気の活動性を抑えることが期待される新しい薬剤です。血液検査で判定するSLEの活動性の数値(補体や抗DNA抗体)を改善する効果があり、長期的に病気の活動性を抑えることに有用であることを期待します。新しい薬剤のため、どういった症状・臓器障害にどのように使うと良いかといった情報が蓄積していくことで、より良い使い方が発展していくでしょう。

3. 妊娠を希望される、または妊娠中のSLE患者さんのサポート

SLE患者さんにおける妊娠・周産期の問題点

SLEの状態が悪いまま妊娠すると、お母さん、赤ちゃんともに危険な状況になってしまうこともありますが、SLE患者さんでも一定の条件を満たせば、妊娠・出産は可能です。実際、当科通院中の患者さんにも、SLE発症後に妊娠・出産され、子育て中の方も多数いらっしゃいます。

一般的には、腎臓などの重要な臓器の機能に大きな問題がなく、妊娠中でも使用できる薬剤のみでSLEが落ち着いている状況が半年程度続いていれば、妊娠・出産を検討することができます。それでも、妊娠中および出産直後にはSLEの悪化が見られることもあるため、SLE患者さんが妊娠・出産される際には十分な注意が必要です。当科では、妊娠を希望される患者さんに対しては、パートナーを含めて事前によく説明、相談のうえ、適切な薬剤選択を含めた診療計画を立てています。また妊娠中・出産後にSLEが悪化するリスクも知られていますが、産科と連携のうえ、定期的なSLE病勢のモニタリング、胎児・母体の検診を行い、可能な限りリスクの低減に努めています。

また、SLE患者さんは、抗リン脂質抗体症候群(APS)という病気を合併することもあります。胎盤に血栓(血の塊)がつまり、赤ちゃんに十分な栄養が届かず、流産や早産の危険性が増える病気です。血栓を防ぐため、バイアスピリンやヘパリンなどの血をサラサラにする薬を使用する場合もあります。

膠原病 妊娠サポートの取り組み

東大病院アレルギー・リウマチ内科では、妊娠・出産を希望されるSLE患者さんをサポートする外来を開設する予定です。産科・小児科と連携を取り、妊娠を希望された段階から出産後まで、総合的診療を行います。妊娠・出産を希望される患者さんは一度ご相談ください。

妊娠中にも使用可能な薬剤

プラケニルは、一般的には赤ちゃんへの悪影響が少ないと言われている薬で、妊娠中にもプラケニルを継続することで、妊娠中のSLEの悪化を防げると言われています。また、膠原病のお母さんから産まれる赤ちゃんは房室ブロックという不整脈を起こすことがありますが、プラケニルはその予防にも有効である可能性が示唆されています。

そのほか、プログラフ、イムラン、プレドニゾロンは妊娠中にも使用可能な薬剤として知られており、これらの薬剤を単剤あるいは組み合わせることで、病勢が落ち着いている患者さんについては、SLE治療を維持・継続しながらの妊娠も可能です。

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