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東大病院SLEセンターの取り組み

 全身性エリテマトーデス(以下、SLE)は、若い女性に発症しやすい病気です。免疫の異常が関与するといわれており、ステロイドなどの免疫抑制療法により短〜中期的な生命予後には大きな改善がみられるようになりました。一方で、妊娠・出産を含めたライフステージへの影響は大きく、また加齢に伴い動脈硬化や骨粗しょう症などの問題も生じてくることが問題となっています。
 また全身の多臓器に障害をきたす可能性のある病気で、リウマチ科医だけではなく、皮膚科医、腎臓内科医を含めた複数の専門医が協力して診療していくことが必要な場合もあります
 東大病院SLEセンターでは、SLE患者さんに対するよりよい治療をめざすとともに、一人一人のライフステージに寄り添う総合的診療を心がけています。

1.寛解をめざした治療

・SLEの治療目標とは

 漠然と治療するのではなく、病気の勢い(疾患活動性)を複数の指標で数値化して評価し、数値目標を立てて治療を最適化する「目標達成に向けた治療(Treat to Target; T2T)」の必要性が近年提唱されています。当科もこの概念に基づき患者様ごとに最適化した治療を目指しています。
 SLEの治療は大きく1. 寛解導入療法と2. 維持療法にわかれます。1は比較的大量のステロイドや免疫抑制剤を使用し、疾患活動性をいち早く抑えることで「寛解」を達成します。寛解の定義は色々と提唱されていますが、基本的にはSLEによる臓器障害がない状態と考えます。例えば腎臓の炎症(腎炎)をおこした患者様であれば、治療によって血圧、尿蛋白、尿沈渣、血液検査(血清クレアチニン)などが正常になることを指します。
 一度寛解を達成もしくは低疾患活動性となった後は、2の維持療法に移行します。この段階では、良い状態を維持したまま速やかにステロイドや免疫抑制剤を最低限まで減らしていきます。
 寛解維持療法で重要なことは、可能であれば薬剤中止下での寛解を目指すこと、それが不可能であっても薬剤を使用した状態での寛解を目指すことです。前者はステロイドを中止しても寛解が維持できていることを指し、後者は免疫抑制剤や最低限度のステロイド(プレドニゾロン 5mg/日以下)使用下で寛解を維持することを言います。

・LLDAS、なぜLLDASの達成が必要か

 Lupus low disease activity state (LLDAS)という概念が提唱されています。LLDASはSLEの「低疾患活動性」を定義したもので、プレドニゾロンは7.5mg/日以下で主要な臓器障害がないことなどで定義されます。先に述べた薬剤使用下寛解ではプレドニゾロン 5mg/日以下でしたので少し緩い基準になります。
 なぜ寛解だけではなくLLDASを定義する必要があるのでしょうか。実は寛解の達成は理想ではあるのですが、基準がとても厳しいため残念ながら達成できないこともあります。その際に目指すべき指標としてLLDASが提唱されました。実際、LLDASを達成・維持する期間が長いほど関節炎、圧迫骨折、心筋梗塞、腎不全などの臓器障害蓄積が少ないことが示されています。またLLDASを達成することで病気の再燃が減少することも示されていますのでとても有用な指標であると考えられます。
 以上のように東大病院SLEセンターでは寛解、LLDASを達成するためにT2Tの概念に則り、最新の知見に基づいて治療方針を組み立てていきます。

・新しいSLE治療薬の活用

 最近、SLEの治療は大きく進歩しています。ステロイドや従来使用されてきた免疫抑制薬には、有効性は高いものの副作用の面では懸念もあり、特に長期の高容量ステロイド使用はステロイド副作用による骨粗鬆症や病的骨折、糖尿病や動脈硬化など臓器障害のリスクが高まることが知られています。SLEセンターでは、新規SLE治療薬を併用することで、なるべくステロイドを減量してSLEを治療することを目標としています。具体的にはセルセプトやプログラフといった免疫抑制剤のほかに、プラケニル、生物学的製剤(ベンリスタ、サフネロー)を、適応のある症例に用いることで、寛解・LLDASを達成することを目指しています。以上の薬剤を活用しても難治な場合には、新薬の治験も行われています。詳しくは医師にお尋ねください。

2.妊娠を希望される、または妊娠中のSLE患者さんのサポート

・SLE患者さんにおける妊娠・周産期の問題点

 SLEは妊娠可能な年齢の女性の方に多い疾患ですので、治療に際しては、妊娠や出産、育児への影響も考慮する必要があります。最近は治療成績の向上に伴い、多くのSLE患者さんにとって、妊娠・出産は現実的なゴールになりつつあります。しかし、SLE患者さんが妊娠・出産される場合には、様々な点に配慮が必要です。
 まず、SLEの状態が悪いときの妊娠・出産は母児ともに危険な状態になる可能性が高いため、病気がしっかりと安定してから、妊娠・出産するようにすることが重要です。また、肺高血圧症や重度の腎機能の低下がある場合など、SLEの病状によっては妊娠に伴うリスクが極めて高く、妊娠が難しい場合もあり、そのような点について事前に評価が必要です。多くのSLEの治療薬(ヒドロキシクロロキンやタクロリムス、アザチオプリン、プレドニゾロンなど)は妊娠中も使用が可能ですが、ミコフェノール酸モフェチルなど妊娠中に使用できない薬剤もあるため、妊娠中も使用可能な薬剤で十分に病気が安定していることを確認してから妊娠を計画する必要があります。
 妊娠中および産褥期はSLEが再燃しやすい時期と言われています。SLEの症状と正常な妊娠で見られる症状は一部似ていることもありますので、そのような点に注意しつつ、慎重に経過を見て、必要に応じて治療内容を調節します。また、SLEの患者さんには、抗リン脂質抗体と呼ばれる自己抗体を持っていらっしゃる方もいらっしゃいます。妊娠中には流産や早産の可能性が高くなってしまうため、必要に応じて、血の塊(血栓)を防ぐ治療を行います。抗SS-A抗体という自己抗体をお持ちの患者さんの場合には、妊娠中に赤ちゃんが房室ブロックという不整脈を起こす場合や、産まれた後に新生児ループスというお母さんの膠原病に似た症状が一時的に出る場合もあり、そのような点にも注意が必要です。
 東大病院SLEセンターでは、リウマチ科医、産婦人科医が協力して妊娠・出産を希望されるSLE患者さんをサポートする周産期外来を開設しています。産科などと連携を取り、妊娠を希望された段階から出産後まで、総合的診療を行います。SLE発症後に妊娠・出産され、育児中の患者さんも多数いらっしゃいます。妊娠に向けての準備やカウンセリングなどのプレコンセプション・ケアも行っていますので、ご希望がある患者さんはご相談ください。

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