疾患解説
成人発症スティル病
1. 疾患概念と疫学
成人発症スティル病(Adult onset Still’s disease; AOSD)は発熱、一過性皮疹、関節炎などを特徴とする炎症性疾患である。スティル病(Still’s disease)とはもともと、小児における若年性特発性関節炎の一亜型であり、1896年にGeorge Stillが報告した小児の関節リウマチのうち、発熱や皮疹を主症状とする全身型と呼ばれるものである。成人発症スティル病は、全身型JIAと同様の疾患が成人に発症したもので、1971年にBywatersにより1つの疾患として初めて記載された。近年、AOSD患者ではIL-1, IL-18の高発現が明らかとなり、インフラマソームなどの自然免疫系の活性化が病態に関連しているとして、広義の自己炎症性疾患のひとつとして考えられている。
発症年齢は15歳から40歳代が多く、男女比は欧米で1:1、日本では1:2〜3とされている。発症頻度は不明だがフランスからの報告で年間発生率が10万人あたり0.16人と比較的まれな疾患である。日本では1990年のOhtaらによる報告で、有病率が10万人あたり男性0.73人、女性 1.47人と推定されている。
2.症状と徴候
- 発熱
典型的には39〜40℃以上に急激に上昇しその後平熱に戻るというspiking feverを毎日(quotidian fever)または1日2回(double-quotidian fever)繰り返す。発熱は午後に現れやすい。間欠期にも平熱まで下がらないことも20%程度の頻度で見られる。 - 皮疹
典型的にはサーモンピンク色の一過性の斑状/斑丘疹状の皮疹が発熱とともに現れ、解熱時には消退することが多い。主に体幹と四肢に出現するが、手掌や足底、ときに顔面にも出現する。通常痒みを伴わない。Köbner現象陽性で、洋服が擦れる部位に出現しやすい(ベルトライン、乳房下部など)。
病理学的には浮腫と表皮の軽度の血管周囲炎、リンパ球・組織球の浸潤を認める等、非特異的な所見であるが、血管炎、Sweet病やその他の疾患との鑑別には有用である。 - 筋骨格症状
発症時に関節痛はほぼ全例に見られる。膝、手首、足首、肘、PIP、肩の順に多い。関節炎は初期には軽度で一過性の少数関節炎であるが、関節リウマチと同様の破壊性の多関節炎に移行することがある。
関節液は通常炎症性で白血球数は平均13,000cells/μLだが、100〜48,000cells/μLと幅広く報告されている。
筋肉痛も特に発熱時に出現することが多く、筋力低下は見られないがCKやAldraseの軽度上昇を伴うことがある。 - 咽頭痛
非化膿性の強い咽頭痛が発症時や再燃時に見られる。診断に重要であるが、理学的所見には乏しい。 - リンパ節腫脹および脾腫
頸部リンパ節腫脹は約半数に見られ、軽度の圧痛を伴う。生検では典型的には傍皮質の免疫芽細胞性過形成が見られる点がRA、SLEや菊池病との鑑別に、良性のポリクローナルなB細胞過形成が見られる点がリンパ腫との鑑別となりうる。 - 肝機能障害
約75%の症例で肝機能障害が見られ、重要な所見ではあるが、AST/ALTの上昇は100〜300IU/L程度にとどまる。肝腫大を触れることは少ない。 - 心肺症状
心膜炎、胸膜炎、一過性の肺浸潤影などは30〜40%程度に見られる。重症の間質性肺炎や心筋炎もまれな報告がある。 - 血球貪食症候群(HPS)またはマクロファージ活性化症候群(MAS)
発熱、汎血球減少、肝障害、DIC、フェリチン著増(数千〜数万)で特徴づけられる重篤な病態である。AOSDでは白血球増加・血小板増多が特徴的であるが、発熱が続くにもかかわらず白血球・血小板が正常値をとるときには、HPS発症の可能性もある。診断は骨髄穿刺で貪食像を確認することによるが、検査の感度は高くない。播種性血管内凝固(DIC)はAOSD単独によってもHPSの合併によっても起こりうる。MASの分類基準については2016年ACR/EULARのsJIA MASにおける規準も参考になる(Ravelli A et al. A&R 2016)
sJIAにおけるMAS (Ravelli A et al. A&R 2016)
大基準:フェチリン > 684 ng/mL
小基準:血小板数 < 181 x 109/L
AST > 48 U/L
TG >156 mg/dL
フィブリノーゲン < 360 mg/dL
大基準1+小基準2以上でMASと診断
3.検査
1)血液検査所見
血沈亢進 | 99% |
---|---|
白血球増多 ≧10,000/μL ≧15,000/μL |
92% 81% |
好中球≧80% | 88% |
血清Alb≦3.5g/dL | 81% |
肝酵素上昇 | 73% |
Hb≦10g/dL | 68% |
血小板≧40万/μL | 62% |
抗核抗体陰性 | 92% |
RF陰性 | 93% |
2)血清フェリチン値の上昇が高率に見られる。1996年の厚生労働省研究班のAOSD 137例の調査で、フェリチン高値は92%、うち正常上限の5倍以上が75%、10倍以上が60%で見られた。血清フェリチン値はさまざまな炎症病態で上昇するが、3,000ng/mL以上(時に数万以上)への上昇は感染症や悪性腫瘍よりもAOSDを疑う。ただし他の原因による血球貪食症候群でも高値となることがある。
3)血清中IL-18の上昇は比較的AOSDに特異的であり、病態形成に関わっているとされる。IL-18は数万pg/mLのオーダーまでの上昇がみられ、特徴的である。IL-6、TNF-α、IFN-γの上昇もしばしば見られるが、非特異的である。
4.診断
日本からの山口による分類基準が、感度・特異度ともに比較的優れており内外で最も広く引用されている。悪性腫瘍や感染症の慎重な除外診断が重要である。
Yamaguchi criteria
Major criteria
- 1週間以上続く39℃以上の発熱
- 2週間以上続く関節痛
- 定型的皮疹(斑状または斑丘疹性、サーモンピンク、非掻痒性、体幹と四肢、発熱時に出現)
- 白血球増多(10,000/μL以上)かつ好中球80%以上
Minor criteria
- 咽頭痛
- リンパ節腫脹あるいは脾腫
- 肝機能障害
- リウマトイド因子陰性、抗核抗体陰性
除外項目
感染症 、悪性腫瘍、他のリウマチ性疾患
Major criteriaを2項目以上含む合計5項目以上を満たすこと(感度96.2%, 特異度 92.1%)
5.治療と予後
1)臨床経過
臨床経過から以下の3つのパターンに分類され、それぞれ約1/3ずつ見られる
①単周期型 | 1回のエピソードのみで再発せず、通常1年以内に無症状に寛解する。 |
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②間欠型 | 複数回の再燃を繰り返すが、エピソードの間には寛解する。繰り返すごとに軽症化し発作期間も短くなることが多い。 |
③慢性型 | 持続的な炎症を伴い、進行性の破壊性関節炎を呈する。 |
生命予後は一般には良好とされるが一部に難治例も存在し、特に診断が遅れた場合、DICやMASを合併した場合には重篤となることがある。
2)治療
自然寛解例もあることから、従来第一選択薬としてはNSAIDsが用いられてきたが、実際にはNSAIDsのみで寛解する例は少なく、ステロイドの投与が必要となることが多い。早期からステロイドの必要な症例を見極めることが重要である。
A)NSAIDs | 軽症例において、発熱や関節痛に対する対症療法として用いられる。イブプロフェンやナプロキセンが比較的有効とされる。 |
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B)ステロイド | 通常0.8〜1.0mg/kgのプレドニゾロンが臓器障害の程度に応じて用いられる。約70〜95%の症例がステロイド治療に反応するとされるが、初期の寛解導入時にはPSL 1.5〜2mg/kgの高容量が必要となることもある。MAS、重篤な肝障害、心タンポナーデ、DICなどの合併症に対しては、メチルプレドニゾロンパルスが用いられる。 |
C)免疫抑制剤 | ステロイド治療のみでは治療効果不十分である場合、高容量ステロイドの減量を考慮する場合に、ステロイドと併用して用いられる。MASに対してはネオーラルが併用される。また、MTXはsteroid sparing effectを期待して用いられることがある。 |
D)生物学的製剤 | 重症例、ステロイド不応例に対してsystemic JIAに準じて用いられる(Yokota S, et al. Lancet. 2008;371:998)。抗IL-6受容体抗体(トシリズマブ)はJIAの多関節型、全身型に適応承認されており、AOSDに対する有効性も報告されている。8mg/kg 1〜2週おき点滴静注で導入する。病勢が不安定の時にTCZ投与によるMAS悪化が指摘されており、導入のタイミングはステロイドによりある程度疾患活動性を抑えてからが望ましいとされる。TCZ併用でPSL減量がすみやかに可能との意見もある。 抗IL-1受容体アンタゴニスト(アナキンラ)は欧米を中心に著効するという報告が多くみられるが、日本では認可されていない。抗TNF-α製剤(インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ)は国内外で有効例の報告はあるものの、不応例や無効化例の報告も多い。 |
平成 30年 5月